事後処理
王都の騒動が収まった翌日。
お昼を知らせる鐘が鳴ると同時に、俺は高級なベッドから起き上がった。
「昨日は遅かったとはいえ、寝すぎたかな」
さすがは、王都で一番人気の宿にあるベッドだ。とてもふかふかで、寝心地は最高である。おかげで、ぐっすりと眠ることができた。ただ、午前という貴重な時間を無駄にしてしまったかと少し後悔していたりもする。
「……人間だもの、睡眠は必要だ」
などと、誰に言っているかわからない言い訳をしながら、昼食という名の朝ごはんを食べようと、宿にある食堂に向かう。
「やっと起きてきましたか。昨日は夜遅くまで行動していたとはいえ、少しだらしないですよ?」
俺とは違い、規則正しく朝に起きたのだろう三人を見つけたので同席することにした。
「眠い時には素直に睡眠をとるべきだ。なぜなら、体がそれを欲しているから」
「それでも、お昼までは寝すぎだと思うけど? それに欲しているまま行動していたら、体は駄目になるわよ」
その通りだったので、何も言えなくなった。
魔法陣の破壊が完了した後、二人は予想通り研究所まで戻ってきた。合流すると言ってしまった手前、何か言われるかなと思っていたのだが。
「色々と大変だったみたいね。お疲れ様」
「激戦だったみたいですね。もっと早く、王都にある魔法陣を破壊できたら良かったんですけど……」
研究所の有り様を見て、大変だったんだろうと納得してくれた。
うん、大変だった。フレンドリーファイアの恐ろしさを認識できたよ。
「そちらもお疲れ様。無事に終わって良かったよ」
「この有り様で無事、というのは違う気もしますが……」
四人で労い合っていると、イヴァンさんが話しかけてきた。
「今回の件は助かったよ。詳しく聞きたいところだけど、クレアシオンという組織と戦っていたそうだし、疲れているだろう。今日はもう宿に戻って休むといい。後日、ギルドを訪ねてきてくれ。そこで話を聞きたい。きちんと休んでからで良いからね」
今の時刻はわからないが、もう夜も遅いはず。冒険者にとって、休養は大事なのでお言葉に甘えさせてもらおう。
「あ、そういえば王都の住人たちはどうなったんだ?」
「私たちが研究所に戻る時には、正気を取り戻しているように感じられましたよ。少しふらついていたり、地面に座り込んでいた人もいましたが、特に外傷は無いようでした」
俺の疑問にアルマが答えてくれた。
操られていた人たちは、王都の中央に位置する広場に集まっていたそうだ。その人達は大体が民間人で、戻ってくる途中にギルド職員や警察の人たちが保護しているのを見かけたとのこと。
魔力を失って疲れているだろう体に鞭打って、人命救助をする姿は立派だと思う。
「中で倒れている構成員達はどうしましょう? 捕縛しておきますか?」
「ああ、それには及ばないよ。直に応援が……。噂をすれば、来たようだね」
門の方を見てみると、鎧に身を包んだ人たちが隊列を組んでこちらに向かって歩いくる姿があった。王都にいたのなら魔力を吸われているはずだが、そんなことを微塵も感じさせない統率された動きだ。
日頃から、よく鍛錬しているだろうことが窺える。
「彼らは、僕が要請しておいた貴族の騎士団だ。この場所が一番怪しいと思ってね」
ギルドマスターの権限って、実はすごいのではなかろうか。怪しいと思っている場所といっても、推測の域を出ないはずだ。確固たる証拠が無くても、騎士団なんて大層なものを動かせるのだから。
数十人はいる中から、歩み出てくる人がいた。
実直そうな短髪の男性だ。キリッとした顔で、貴族の敬礼をしている姿は騎士のように見える。
あ、本物の騎士か。
「レストーリン騎士団、参りました! ギルドマスター殿、我々は何をすればよろしいのでしょうか?」
「援助感謝する。君たちにお願いしたいのは、クレアシオンという組織の構成員の捕縛だ。この研究所内にいるので頼みたい。すでに倒されて気絶しているらしいが、油断しないようにね」
「はっ!」
機敏な動きで研究所内に突入していく騎士団を見送り、思ったことを口にする。
「レストーリン? どこかで聞いたような……」
「彼らはレストーリン公爵の騎士団だよ。グランデシャトーのギルドと提携していてね。ある条件をのむ代わりに、有事の際は優先的に協力してもらえるようになってるんだよ」
「ある条件?」
「ヴィオラ様の料理を提供する場の用意。他にも色々あるんだけど親ばかなのもあって、それを第一にって言ってきたんだよ」
親ばかであるかもしれないが、それだけが理由とはどうしても思えない。
「まあ、他の貴族のよりも精強でとても頼りになるし、彼らも非常に好意的で冒険者とも仲が良いんだ。利点の方が大きいくらいだよ」
……ヴィオラさんとこの騎士団なら、そりゃ精強だろうな。毎日、鍛えさせられているに違いない。
冒険者とも仲が良いのは、同じ釜の飯を食べたおかげ。そう考えると実はヴィオラさんは、こうなるようにわざと……はないな。あの顔は、完全に趣味の顔だったし。
「食べさせられる冒険者には悪いと思っているけど、それ相応の見返りもあるからね」
「……王都の冒険者ギルドって、大変なんですね」
「うちだけだよ。他の三つのギルドは、拒否していたからね。僕も最初はしたかったんだけど、他のギルドからの圧力が……」
他のギルドマスターよりも若いらしいから、押し付けられたんだな。
「さ、こちらのことは僕たちに任せて、君たちは休むといい。王都の危機を未然に防いだこと、感謝するよ」
イヴァンさんに促され、カンナさんたちと言葉を交わした後、宿に戻ったのである。
「ギルドには、明日行くのよね?」
アルミラが食後の紅茶を飲みながら、提案してきたことに対して頷く。
ゆっくりで良いって言ってたし、事件があった翌日に行くこともないだろう。イヴァンさんたちだって忙しいだろうし。
「そうだな。今日は、研究所に行ってみようと思う」
「今日という日は、もう半分過ぎましたけどね」
残り半分もあるじゃないか。
他に用事もなかったため、俺たち四人は研究所に向かった。
「おや、ソウイチ君たちじゃないか。手伝いに来てくれたのかい?」
研究所に着くと、慌ただしく職員の方たちが動き回っているのが見えた。事件後の整理で忙しいのだろうと考え、日を改めて出直そうとしたところにカンナさんとリカさんが、ちょうど大きい袋を持って門まで出てきたのだ。
「ありがとうございます。実験場に繋がる扉の修理と廊下にある大量の砂、荒れ果てたお部屋の掃除とやることが山積みだったんです。人手が足りなかったので、嬉しいです」
リカさんの言葉に思い当たる節があった俺たちは、自発的に取り組むことにした。
美少女に笑顔で言われたら、断る選択肢は無いよな。……俺たちがやったことだし。




