二度目の爆発
バーテルの歩みが止まり、一定の距離で立ち止まっているのはこちらを警戒しているからだろうか。
「翼が残り一つになりましたね。さきほど、ギルドマスターが言っていた不可視の障壁の正体は翼だったわけです。上級魔法は防げても最上級魔法は防げない。つまり、次の同時攻撃で終わりということです」
やっと、自分の出番が来たからか前に進みながら、手をバーテルに向け堂々とした決め台詞を言い放つミリカ。
だが、そんなミリカに対して申し訳なさそうに。
「ごめんよ。もう魔力が残ってなくて、精々初級魔法分しかない。さっきはあんなこと言ったけど、単純に自分の手だけでやり返したかっただけなんだ。僕も男の子だからね。売られた喧嘩は買いたかったのさ」
イヴァンさんからふざけた謝罪の言葉が述べられた。
もう使えないってこと? 同時攻撃は試せない?
「こんな時に冗談はやめてくださいよ。最悪、ミリカに翼の方は対処してもらいますから、イヴァンさんはバーテルを倒せる魔法を使ってください」
「え? 無理だよ。初級魔法には人を気絶させるほどの威力はないし、射程も短い。近づこうにも、あのバーテルとかいう男の肉体能力は凄まじいから近寄りたくない。それに、少しでも損傷を与えることができたのなら、僕の役割はこれでおしまい。あとは任せたよ。君たちなら、必ず王都を救ってくれるって信じてるから」
……こいつ、ギルドマスターなんだよな。その他力本願な考え方は如何なものか。
軽い調子で謝る態度にイラっとくるが、使えないものはしょうがない。こうなったら俺がやつの隙を作り、ミリカの魔法を翼で防御されないようにするしかないな。悔しいが、俺だけの力で気絶まで持って行くのには少し時間がかかりそうだ。王都がこんな状態だし、時間はあまりかけたくない。
ここは、俺たちのコンビネーションを見せるしかないな。
「フレア・テンペスト・デトネーション!」
「!?」
何も備えていない無防備な状態で、いきなりの爆発。爆風に煽られ、イヴァンさんと共に研究所の壁まで吹き飛ばされる。
無詠唱は強くて便利かもしれないけれど、話し合いもせずに使われるとこのように味方まで被害が及ぶ。特に、最上級魔法なんていう効果範囲の広いやつは周囲への影響が顕著だ。
相手の意表を突くのは良い手だと思うが、今回だったらもう少しやりようがあっただろう。
おかげで壁に頭から激突した、もう一人の方が悶絶しているぞ。
二度目の爆発に晒されたバーテルは翼を完全に失い、片膝をつき右腕を押さえていた。一度目の爆発で右翼を失ったせいか、きちんと防御しきれなかったようだ。それでも、無表情のままこちらをじっと見つめてくる姿には、やはり不気味さを感じる。
「おーい。ミリカさん。効果範囲の広い魔法を使う時は、あらかじめ言っておいてくれると助かるんですけどー」
「同時攻撃ができないのなら、不意を打てば倒せると考えたんです。それにソウイチのことは信じてましたから。このくらいの爆風は平気でしょう?」
平気なわけあるかい。今の俺の状態を見てくれ。研究所の外壁まで吹き飛んでるぞ。
ニコっとした笑顔で言ってくるが、そんな信頼はいらない。
コンビネーションが完璧すぎて感動したよ。ちくしょう。
「ま、まさか僕の最大火力である魔法を同威力、しかも無詠唱で使われるとは思ってもみなかった。さすがと言わせてもらおうじゃないか」
真剣な表情と声音で言うのは良いが、寝転がったままだと台無しだ。
「ソウイチ。今なら相手も弱ってます。ここでこそ、馬鹿力を発揮するときですよ!」
「そうだな。これで終わりにしよう。釈然としないけど」
吹き飛ばされはしたが、特に痛みなど体の不調は感じないため一息で立ち上がる。ゆっくりと歩きながらバーテルの元まで向かい、目の前で立ち止まる。
俺が目の前にいても、顔だけは動かすのだがやはり言葉を発しない。
「なんでそんな状態になっているのかは、知らないが……。あー、決め台詞が思い浮かばない」
最後だけは格好良く終わらせてやろうと考えたのだが、言葉が出ない。
そして、問題に気がついた。
生身の人間を気絶させるやり方がわからない。
今までは殺されるかもしれないという恐怖感があったり、蟻という虫だったり、ゴーレムだったりしたから力を奮えたが、抵抗のない人間は初めてだ。
考えた末、相手は動けないようなので、後ろに回り見様見真似の裸絞で落とすことにした。
あっさりと技が決まったのだが、いつまでやっていればいいかわからない。
「ソ、ソウイチ! 白目と舌が……! ぴくぴくしてきて気持ち悪いですよ! やばそうですよ!」
ミリカの言葉を聞いて急ぎ、腕の力を緩めるとバーテルが地面に倒れ伏した。
絞めて倒したけれど、この終わり方は締まらないよな。
微妙な感じを誤魔化すべく空を仰ぎ見ると、光の柱はあと二本だけになっていた。
……時間、かかっちゃったな。今から合流しようとしても、全て終わった後になりそうだ。




