爆発
「イヴァンさん! 俺がこいつの動きを止めている間にその杖で殴ってください!」
「この杖は打撃用じゃないんだけど……」
提案内容がお気に召さなかったのか、イヴァンさんは少し嫌そうな顔で答える。
こんな組み合ってる状態で魔法を撃たれたら、絶対俺にも被害が出る。巻き込まれたくないので、杖での殴打をお願いするのは間違いではないと思う。
見るからに鈍器だし、そういう使い方を見越したデザインなんじゃないだろうか。下手すると脳天に刺さりそうな尖った部分もあるし……。
イヴァンさんがこちらに歩いてくるのを眺めていると、それを察知したのか離れようと手を放すバーテル。掴んでいた手から器用に拳を外してのけ、そのまま横に跳び距離を置かれてしまった。
殴打用でもない杖で殴られて気絶、なんていうことにはなりたくなかったのか、行動が早かった。
「うまくいかなかったね。でも、ソウイチ君の力であのバーテルとかいう男を止められることがわかったから、勝機が見えてきたよ。魔王の幹部を倒せたのも納得だ」
ほっとしたようにうんうんと頷いているのは、杖で殴らなくても済んだからだろうか。それとも勝機が見えたからだろうか。あるいは、両方か。
「バーテルを倒すにはどうすれば良いですか?」
「さっき上級魔法の中でも威力の高い魔法を使ってみたんだけど、不可視の障壁が展開していたのか防がれてしまったんだ。次は最上級魔法で試してみたいから、ソウイチ君には僕が詠唱する時間を稼いでもらいたい。あとできれば、もう少し距離が欲しい」
「私なら、無詠唱で最上級魔法を使えますよ。今日はあと一回しか使えませんけど、どうしますか?」
イヴァンさんと一緒にこちらに移動してきていたミリカがそう提案する。
「一度僕だけで試したい。もしそれで防がれたら、次は同時を試したいんだ。それまでミリカさんの魔法は待ってもらいたい。無詠唱で放てる強力な一撃は残しておきたいからね」
「わかりました!」
強力な一撃という部分に反応したのか、力強い返事だ。
「イヴァンさん、詠唱お願いします。バーテルのことは俺に任せてください。こちらには来させないようにします。あ、詠唱が完了したら合図をお願いします。素早く離れますから!」
最上級魔法は、二つしか見たこと無いが範囲が広くえげつない攻撃ばかりだ。絶対巻き込まれたくない。
「でしたら、私が名前を呼ぶ合図を出します。ソウイチ、気をつけてください」
「爆発系の魔法を使う予定ですので、できるだけ離れてくださいね」
「はい!」
答えると同時にバーテル目掛けて最初はゆっくりと走り、ある程度近づいてから一息で距離を詰める。緩急をつければ、相手の意表が突けるだろうという素人考えの行動だ。
「せいっ!」
助走をつけた右足での上段蹴りは、右手を添えた左腕で簡単に防御されてしまった。だが、構わない。俺の狙いは時間稼ぎと距離を空けることだ。
防御の上から右足に力を込めるとそのまま振りぬき、バーテルを後方に蹴り飛ばす。さらに踏み込み、今度は左の回し蹴りを放とうと考えたが。
「魔法を使えるのか!」
突然明るくなったと思った瞬間、馬の形をした炎が目の前に迫ってきていた。
急いで横に跳び、躱すことに成功する。だが、通り過ぎて行ったその炎の馬は消えず、転回すると再度こちらに向かって突進してくる。
炎で象られているだけあって、横を通過しただけで相当な熱が身体に叩きつけられた。
こんなものを無詠唱で使うとか、勘弁してくれよ。
ギリギリまで引き付けてから二度目の突進を難なく躱し、バーテルの近くまで走り転回する炎の馬に注意を払う。また突進してくるのかと身構えていると、そこで待機しているようだ。来ないのかと見ているとバーテルが何かを詠唱している様子が……。
「普通、こういう場面って馬を操るのに集中して他の動作はできないものだろ!?」
やばい、あの馬は避けられるが同時に魔法を使われたらどうなるかわからないぞ。
バーテルが詠唱を終わらせたようで、あの馬がこちらに突進を仕掛けようとして足を動かしたその時。
「ソウイチ!!」
ミリカから合図が来た。
バーテル達からは十分離れている気もするが、念のためさらに距離を置く。
「いきますよ! フレア・テンペスト・デトネーション!」
俺が十分な位置にいると判断したのか、イヴァンさんが魔法を唱えた。
その魔法は今まで見たどんな魔法よりも派手さがあり、周りに対する影響も半端ではなかった。
バーテルが居たところで爆発が起きたのだろう、その余波で研究所のガラスが割れ、爆風が押し寄せてくる。凄まじい威力のため、地面に両手を付け、できるだけ体を低くしてやり過ごす。
もっと離れておくべきだった。
こんな高威力とは思ってなかったため、後悔も押し寄せてきた。砂埃がすごいのだ。
「やりすぎましたかね。さすがに、この威力の魔法は防げないでしょう。王都の騒ぎを起こした首謀者ということで、できれば生きたまま捕まえたかったんですが致し方無しです。私も殺されかかったので正当防衛ということで」
この人、結構過激な性格してるぞ。
ずれた眼鏡を直している姿からは優しそうな印象を受けるが、口角を上げながら言葉を発しているせいで一気に悪役になり下がっている。最初から殺すつもりで放ったことがありありと伝わってくるからだろうか。
「これで終わったんですか?」
ミリカの声はどこか寂し気に聞こえた。あんなでも名付け親だ。きっと、悲しいに違いない。
近づいて慰めてやろうと思ったが、
「……私の出番が無くなってしまいました」
その言葉で思いとどまった。
寂しげにしていたのは、それが原因なのか? もっと、こう思うことがあってもいいのでは?
そんなミリカの名付け親がどうなっているのか気になった俺は、視線を爆心地に向ける。
いまだに煙が立ち込めているせいで、バーテルの様子を知ることはできないが、きっともう生きてはいないはずだ。あれの直撃を受けたからには、体すら残っていないかもしれない。
なんて、一瞬でも思ったが。
「な?! 僕の最大火力の魔法を受けきったのか?!」
中ボスでは無く、ボスだと断言した俺の言葉は正しかったようだ。
無傷とまではいかないまでも、五体満足でこちらに歩いてくる姿があった。翼は一つになり、ローブは所々が焦げている。あの馬は爆発で消し飛んだのか、どこにも見当たらない。
あれを耐えきるとか、こいつも人間じゃないな。




