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透明な翼

 翼が生え、戦闘力が増したであろう雰囲気を醸し出すバーテルを眺め、辟易していると。


「来るのが遅すぎるわよ! 一般人が危険な目に遭ってるんだから、冒険者なら早く来なさいよ! ここにいるギルドマスターがいなかったら、本当に終わったと思ったんだからね!」


 本館を出て左側に倉庫があるのだが、そこから甲高い怒鳴り声が聞こえてきた。ちらっと一瞥すると、その扉からは不機嫌そうな顔を覗かせているエリーサの姿が見える。


「……な、何だい? あの女性は?」


 カンナさんはギャーギャー喚いているエリーサに困惑しているようで、戸惑いの声を上げていた。


「あれのことは気にしなくて大丈夫です。最初は敵のような感じだったんですけど、今は無害な一般人ですから」


「そ、そうかい?」


 全然説明できていない気はするが、納得してくれたみたいなのでエリーサのことは放っておいて、対峙したまま動く気配を見せない二人の元まで歩いて近づく。カンナさんとリカさんについては、アルミラとアルマが説明ついでに倉庫まで護衛するとのことで任せる。


 問題は、イヴァンさんとバーテルだ。


 お互いに睨み合って出方を窺っているようだが、様相はまるで違う。一方は余裕な感じで腕をだらんとさせてこちらを観察している様子だが、もう一方は豪華な長杖の先端を相手に向けたまま張りつめた糸のように警戒をしている状態だ。


「イヴァンさん、大丈夫ですか?」


「ソウイチ君かい? いや、参ったね。あれは何だい? この王都の騒ぎといい、何が起こっているのかな」


 話かけてもバーテルから一切顔を逸らさず、こちらに返答していることから相当追い詰められていたようだ。


「ソウイチ君たちと別れた後に用事を済ませたまでは良かったんだけど、知人の家を訪ねても留守。よく研究所で寝泊まりしているから、今日もそうなのかなと向かおうとした矢先に大規模な騒ぎが起きるし。ギルド職員や手の空いている冒険者たちに指示を出し終わって、やっと研究所まで来たらいきなり襲われる。本当、厄日だよ」


 一気に老け込んだと錯覚するほど、声に覇気を感じない。


 上の立場の人って大変なんだな。


「細かいことは省きますが、あれはクレアシオンという組織のリーダーです。王都の騒ぎもあれが計画して、実行してました。なんで、翼が生えているのかまでは知りませんが、あの眼は厄介ですよ。神の眼らしく、色々な能力を有しているそうです」


 俺の後ろを着いてきたらしいミリカから、そんな説明が入る。


 神の眼を授かったと言っていたから、あの透明な翼の生えた状態はいわば天使でも模しているつもりなのだろうか。俺が想像する天使は美人な女性のイメージだから、あれは嫌だな。


「翼? 一体どこにあるんだい?」


 イヴァンさんには、見えていないのか? 


 透明で決して目立つような感じではないが、そこにあると知覚できる。見た目よりも存在感があるから、気づくはずなんだが……。


「あの男の肩らへんから生えてるんですけど、見えませんか? 透明感があって、見づらいかもしれませんが、存在感はあるでしょう?」


「ごめん、僕には全く見えない。魔眼は把握できるんだけどね」


 俺とミリカに見えて、イヴァンさんには見えていない。どういうことだろうか。もしかしたら、精霊が関係している?


「なんにせよ、あれが原因なら捕まえたいところだよ。魔王の幹部を倒せるほどの実力者が来てくれたことはありがたい。協力して欲しい。僕一人の手には余る相手だったんだ」


「それは当然ですね。冒険者たるもの一般人を守る義務がありますから。あんなのを野放しにしておくと被害が出かねませんから、協力して倒しましょう。これはクエストということで、当然お金も貰えることでしょうし」


 義務はあっても、危険に身をおく以上対価は必要だ。魔王の幹部を倒したことで一億ルド貰えるが、お金はあって困るものじゃない。


 そんな俺の発言にミリカは同調し、イヴァンさんは苦笑していた。


「頼もしい限りだよ。あ、注意点として彼には……」


 有益な情報がもたらされる前に、いきなりバーテルが俺に殴りかかってきた。


 まさかいきなり殴ってくるとは思ってなかった俺はろくに反応できず、右肩を殴られ吹き飛ばされた。研究所の外壁まで吹き飛び叩きつけられたが、せいぜいが打ち身程度の痛みだ。我慢できるが、殴られた肩が痺れている。


 さっきの仕返しのつもりか!


「ソウイチ!!」


 ミリカの叫び声に大丈夫だと返答し、立ち上がると目の前にもうバーテルが迫っていた。実験室の時よりも攻撃的になっているのは、簡単に倒されたことを根に持っているからだろうか。


 今度は左肩を狙って殴ってきたバーテルの拳を左手で受け止め、こちらからも右拳を突き出すも受け止められてしまった。


 痺れているためか、あまり力が入らなかったようだ。


「力を増して復活とかは、勘弁してほしいんだけどな。どうやって怪我を直したのか聞いても良いか?」


「……」


 問いかけには答えず、力が拮抗している状態でも無表情なバーテルの様子に首を傾げる。


 こいつ、饒舌キャラだった気がするが、説明は負けフラグだということをさっきので学習したのだろうか。


「ソウイチ!! 大丈夫ですか?! 今、助けます……」


「こっちは大丈夫だ! それよりも、王都の街中にある魔法陣の破壊を頼む! これを倒すのに少し時間がかかるだろうが、終わったら合流するから!」


 心配して加勢してくれようとするアルマに、魔法陣の破壊を優先してお願いする。放置しておいても良いことはないはずだ。


「わ、わかりました! 研究所から見て右側の魔法陣から破壊していきます!」


「私もアルマについていくわ! 魔力の流れがわかれば場所も把握しやすいでしょうし!」


 アルマとアルミラが門まで走っていく姿を見ながら、目の前にいるこいつをどう倒すか考える。どうやって怪我を治したのか判明していないため、あと一回しか使えないミリカの魔法は温存しておきたい。であれば、イヴァンさんに対処をお願いするのが良いだろう。


 あのご立派な杖で頭部を強打すれば、意識を刈り取ることができそうだな。

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