合流
アルマのゴーレムが文字通り、その身を粉にして作ってくれた目印を頼りに廊下を走る。
「この廊下にある砂の量が多すぎるんだが、ゴーレムは大丈夫なのか?」
「問題無いです。私と魔力でつながってるので欠けた分は常時補充してます」
遠隔操作も可能なのか。俺も使役してみたいな、ゴーレム。
後ろから追従して走ってくる姿を見ながらそんなことを思った。
「あとゴーレムを召喚した時に気づいたんですけど、魔法陣は人間からしか魔力を吸い取ってないみたいなんです。おそらく精霊を操って無理矢理魔力を放出させてるのだと思います。現にゴーレムからは魔力の減衰を感じませんので……」
「祈りがどうとか言ってたもんな。無差別に吸い取らないだけ、マシと考えるべきか。……お、あの部屋か」
会話をしていると、ある部屋に砂が続いているのが目に入った。部屋名を見ると、魔法研究・開発室と書かれている。中から青白い光が廊下に漏れているので、まだ魔法陣は破壊されていないようだ。戦闘音は聞こえてこない。
突撃!
即座に飛び込もうとする俺をアルマが羽交い絞めにして止めたのだろう、後ろから抱きしめられた感覚が……。
その瞬間、不謹慎だとわかっていても背中の感覚を研ぎ澄ます。その結果、硬い何かが当たっているのがわかった。
「……なんだ、ゴーレムか」
「ソウイチ、焦る気持ちはわかりますが慎重に行動しましょう。部屋の様子を確認してからでないと、万が一の事態に対処できませんから」
最もな意見に賛成はするが、ゴーレムよりもアルマ本人に抱き止められたかった。
ゴーレムに羽交い絞めにされている俺の前に回り、部屋の様子を確認しているアルマ。
「どうやら、決着が着いてるみたいですね。……すごい荒れ果ててしまっている様ですが」
拘束する力が緩んだので、アルマと共に部屋に入る。その部屋は確かに荒れ果てていた。
「局地的な台風でも発生したのか?」
理科用の実験台みたいなものが見るも無残な置かれ方をしていた。真ん中から折れているもの、本来の置かれ方とは違うような縦置き、壁にめり込んでいるものなど。
「来てくれたのね。あいつらは倒したの?」
「まあ、何とかなった。アルミラ達は大丈夫だったか? こちらに転移で来た奴がいたと思ったんだけど……」
「えーっと、それならあそこにいるわ」
指差してくれた方を向くと、天井にめり込んでいる人間がいた。
「この部屋に着いたのは良かったんだけど、実験室と同じように魔法陣が部屋に書かれていてね。壊す方法が思いつかなかったから、ミリカの魔法を試そうってなったの。魔法が発動した瞬間に転移してきて、その余波でね」
き、気の毒に……。幹部なのに名前も聞いてないぞ。
「それにしても、ミリカは大丈夫なのか? さっきのことがあったばかりなのに。ショックを受けてるものと思ったが……」
「ソウイチの馬鹿発言のおかげじゃない?」
……何も言えない。あの時、もうちょっとマシなことを言えたら良かったんだろうけど、俺には無理だった。
「多分考え込んでると思うわよ。探していた両親が実はいなかったなんて、ショック以外の何物でもないと思うから。けど、今は考えるよりもやるべきことがあると理解してる、だからこそ行動してるんじゃない? 行動した結果、幹部を倒してるし」
無理しなければいいけどな。
アルミラと小声で話し合いながら、ミリカの様子を窺う。内に秘めた想いはわからないが、全く変わりがないように見える。話をされている本人はアルマが魔法陣を解読しているのを横目で眺めているだけだが、そんな印象を受ける。
「ソウイチ君、さっきはありがとう。言うのが遅くなってしまった」
ミリカを眺めていると右横から声がかけられた。
「カンナさんの洗脳が解けて良かったです」
「洗脳? 私は特に何も受けていなかったのだが……。バリデ氏はどうなったのか聞いてもいいかい? 洗脳を受けていたのは彼の方だったからね」
「実験場で元気に寝ていると思います。外傷は無いはずなので、大丈夫ですよ」
「そうかい。あれでも待っている家族がいるからね。嫌いではあるけど、つい心配してしまったよ」
ハッハッハと笑っているが、照れ隠しのように感じる。犬猿の仲だとしても、あの男を研究者としては認めているからこそ心配をするのだろう。
「ここの魔法陣も破壊できましたよ」
アルマの声と共に室内が暗くなる。残り、一つだ。
「ついてきてくれ。最後の場所まで案内するよ」
カンナさんの案内で廊下を走り、最後の部屋を目指す。俺たちが実験場に来る前、バーテルから場所を話されたのか、一直線に目的の部屋まで走っていくカンナさんの背中を頼もしく感じる。
魔法研究・開発室から階をまたぎ、二階。目的の部屋までたどり着いた。
みんなを代表して俺が入り口から覗くと、
「もしかして、転移してからずっとあそこに佇んでいたのか?」
部屋の中央にポツンと佇む、ローブを被ったものの姿があった。その佇まいは哀愁を感じる。入り口側をずっと凝視していたようで来たことがすぐばれてしまったが、俺を見つけた時の声は忘れられない。
「やっと来たか!」
その声は待ち望んでいたものが、やっと来たことに対する嬉しさで溢れていた。
いや、来ちゃまずいんじゃないのか?




