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瞬殺

「俺はお前らの組織に入る気は無い。そもそも」


 他人を傷つけるような奴らに理想郷なんて無理だ。


 どこかで聞いたような台詞をここぞとばかりに言おうとしたのだが、タイミング良くこの部屋に展開されていた魔法陣が消えた。


 ……さすがアルマだ。こんな短時間で事を成すとは計算外だったよ。


「ソウイチ、魔法陣を破壊しましたよ!」


 その言葉を聞き、呆気に取られているのか微動だにしなくなった幹部連中から視線を逸らす。


 今までバーテルや他の幹部連中がアルマ達の元へ行かないか警戒していたのだが、その様子から大丈夫だろうと判断し、振り返る。


「魔法陣の破壊、お疲れ様! ……え?」


 アルマの顔は難しい問題を自力で解き終わったような、達成感に満ちていた。月と星の影響だろう差し込んでくる明かりもあり、表情がくっきり見える。


 それは良いんだ。アルマの嬉しいという感情は好ましい。問題は……。


 全然後ろから声が聞こえてこないことに疑問を抱いていたが、アルミラ達とも協力して真剣にやっているのものだと思っていた。だが、違った。


「な、なあ、アルマ。他の人たちはどうしたんだ?」


 入り口よりやや左側にいるアルマ以外の人が見当たらない。ゴーレムは残っていたが、入り口にポツンと寂しそうに立っているだけだ。


「カンナさんが声をかけて、他の場所に向かいましたよ。どうやら、ここ以外にも研究所内に何かを細工されているところがあるらしいです。それを確認しに行くと言ってました」


 あ、そうなんだ。一言も声をかけられずに行動されると寂しさを感じるが、相手に警戒されるもんな。それに俺は一応戦闘してたし。


 視線を再度バーテルらに向けると。


「ふっふっふ、まさか、この部屋の魔法陣を無力化されるとはね。称賛を送ろう。だが、喜ぶにはまだ早いよ。神を造り上げる魔法陣はまだ健在なのだからね。空を見上げると良い」


 左の人差し指で天を指している様子につられ、王都の空を見上げると驚愕した。なぜなら、いまだ魔法陣が夜空に描かれていたからだ。


「この部屋の魔法陣は破壊したのに……」


「答えは単純だ。この部屋以外にも保険はかけておいたのさ。……と言えれば格好良かったのかもしれないけど、この部屋の方こそがもしもの時に備えた頑強なものだったんだよ。本命は生きて、予備が壊されるとは思ってなかった。しかも、ここは他のよりも複雑にしたはずなんだけどね」


 よほどショックだったのか、声に力を感じない。さっきのたとえで表すなら、頑張っていじわる問題を考えた先生が生徒に一瞬で解かれたような感じかな。


 アルマは得意げにえっへんと胸を張っている。それは眼福なんだが、まだ全部の問題は解決してないぞ。


「早いとこ他の魔法陣を破壊しにいかないとな」


「そう簡単に行かせると思うかい? ここを壊されたんだ。さすがに余裕が無くなってしまったよ。特にそこのダークエルフを向かわせるわけにはいかないな」


 バーテルの言葉に前に出てくる人工の髪を有する男。そして、他のローブを着て傍観していた二人は突然消えてしまった。その消え方は何度か目にしていた。


「転移魔法か!」


「ご名答。残る二か所に行ってもらったよ」


 アルミラ達のことが心配になったが、まずは目の前の男に集中する。さっさと片付けて、合流しよう。


「君は僕たちの組織に入る気は無いようだし。本気で相手してあげよう」


 バーテルの目が輝きを増し、なんと倒れていたはずのオーク……バリデが立ち上がると同時に体に巻かれていたローブがはじけ飛んだ。神の眼は操る対象の力を上げられるのだろう、脂肪しかないはずの腕でちぎったように見えたから間違ってはいないはずだ。


 そういえば、カンナさんと一緒に拘束されていたっけ。助ける気が起きなかったから放置していたら、面倒な事になってしまった。


「ソウイチ君と呼ばれていたね、君の相手は僕がしよう」


「では、私はあちらにいるダークエルフでも相手してあげましょう。自己紹介してなかったな。私はヘルセスというものだ。短い間だろうけど、よろしく」


 不自然な髪型をしたやつだが、杖を構える姿からは並みの魔術師でないことが感じられる。だが、相手が悪いとしか言えない。


 アルマと顔を見合わせ、頷くと同時に俺はバーテル目掛けて駆けだす。先ほどよりも気持ち速めに接近し、狙いは変わらず右肩に拳を突き出す。


 俺の動きは完全に見切っているようで、先ほどと同様に手で受け止めようと考えているのか拳の軌道上に合わせている。今度は手加減しない。


 結果は圧勝。


 受け止められることは無く、逆に右手ごと肩を粉砕したような感触と共に後ろに吹き飛んでいった。


 拳を受け止めた後、バリデという男に攻撃させようと画策していたようだが甘い。気を失ったからなのかはわからないが、操っていた力は消えたのだろう。糸が切れたようにこちらに倒れてくる肉の塊を躱す。


 倒れてくるのが女性なら支えただろうが、男なのでそんなことはしない。それに、お腹がクッションになるだろうから問題ないだろう。


 アルマの方も終わったようで、無残に切り裂かれた髪が宙に舞っていた。そこら中に血が飛び散っているようで、床に黒い絵が描かれている。


 一番可哀想なのは、もうあの被り物は使えないだろうということ。


「……よし、みんなと合流しよう。と思ったけど、道がわからないな」


「その件なら大丈夫ですよ。もう一体のゴーレムを付き従わせてますから。移動しながら体の一部を砕かせてるので、道に落ちているのを追うだけです」


 アルマの言葉通り、廊下には目印があった。


 用意周到で助かるのだが、この件が片付いた後の掃除が大変そうだと思ってしまうほど廊下は砂にまみれている。


 俺たちは急いで合流するべく、廊下を走り出した。

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