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理念

「面白い感性を持っている仲間に巡り合えて良かったじゃないか。あと、言っておくけどこの魔法陣を解読するなんて無駄なことはしない方が賢明だよ。如何に長生きなダークエルフだとしても、さすがに見たことはないだろう?」


「私は二十一歳です!」


 反論するところが違う気がするぞ。


 バーテルの言葉からアルマが魔法陣の調査を開始したようだが、それを止めようともせず嘲笑している姿は完全に油断している証拠だろう。


 こちらは会話でもして、意識をアルマから遠ざけるとするか。


「あんたらに質問したいことがある」


「何だい? 後少しで目的が達成できそうなんだ。それまでは何でも聞くといい。今の私は機嫌が良いからね、全てを答えようじゃないか」


 アルマ、できるだけ早く解読頼むぞ。


「その目的というのは、何なんだ?」


「神の創造だよ。神というものは、人々が共通の祈りを捧げることによって生まれる。その祈りが多ければ、強ければ、それに応じて簡単に生まれるんだよ。無論、条件さえ整えばの話だけどね」


「だから、王都で演説をして信者を集めていたのか?」


「信者なんていらないさ。僕たちの研究は、その祈りが紛い物でも神は生まれるのかということを確認するための実験なのだから。そもそも、なぜ僕たちがこんなことを始めたのか疑問に思っている顔をしているね?」


 いや、別に。……エリーサから情報は聞き出しているので、そんなに興味は無い。理想郷が云々だった気がする。


 バーテルはそう言いながら黒い眼帯を取り払うと同時に、手で髪をかき上げる仕草をする。目にかかる程伸ばされていた髪が後ろに送られ、眼帯で隠していた目が露わになる。


「まさか、魔眼か! ……あと、動きがキザっぽい」


「魔眼? そんな穢れたものと一緒にしないでもらいたいね。これは神から授かった眼だよ。……キザ?」


 バーテルの左眼は、それ自体が青白く発光していた。炎が揺らめいているような、その見た目からは言い知れない力を感じる。


 この感覚はどこかで感じた。……あの女神から渡されたお守りと一緒だ。ということは、本当に神から授かった眼?


「御大層なものをお持ちなようだな。それで質問だけど!」


 言い終わる前に駆け出し、先ほどと同じ速度でバーテルに肉薄し、手加減した拳を右肩狙って突き出す。あの目を見てからなぜか焦燥感に襲われた俺は、ゆっくり話をする気になれず攻撃を選択した。


 だが。


「な?!」


「いきなり、過激だねえ」


 手加減をしていたとはいえ、片手で受け止められるなんて想像していなかった。


 本を奪った時には、俺の動きは視認できていなかったはずだ。でなければ、あんな簡単に本を奪われはしないだろう。


「さっきは捉えられなかった君の動きが、今じゃ手に取るようにわかるよ。眼帯を取って正解だったようだね。こんな力で殴られていたら、一撃で終わりだっただろうから。ああ、感謝いたします神よ」


「……その眼の能力か?」


「ああ、そうだとも。君の力に敬意を表して答えてあげよう。これは生まれた時に与えられた能力だ。残念なことに、長時間の使用は身体が耐えられなくなってしまうから、普段は封印しているけどね。能力を使わずとも、疲労してしまうんだよ」


 便利な能力を常時使えないことに対して、残念でならないと首を横に振っている。


 その隙に拳を引こうとしたが、がっちりと掴まれていて離れることができない。


 こいつも筋力お化けだな。


「そうだ、この眼の能力を君に教えてあげるよ」


 愉快そうに口角を上げて、俺の目を覗き込んだ瞬間。


「な?! 操れない。君は一体……」


 その顔は驚愕に染まり、信じられないものを見たという目を向けられた。


 表情が忙しなく動いている様子から、さぞ頑強な表情筋をお持ちなようだ。


 驚いたときに掴まれていた力が弱まったので、体制を立て直すため地面を蹴って後退する。


「神の力が効かないなんて、初めての体験だったよ」


「その眼は王都で演説していたやつらが持っていた魔導書と、同じ能力を持ってるってことで良いのか?」


「へー、複製した魔導書を入手して解析したみたいだね、あんな短時間で。その通りだよ。……と言いたいけど、間違いがある。正確に言うと、その能力に足して複製する能力もあるんだよ」


「たくさん能力持ってるようで、羨ましいよ」


 身体能力の強化、人を操る能力、記憶を書き換える能力、複製する能力。便利な能力を持ってるからこその余裕なのか、追撃をしてくる様子は無く棒立ちだ。


「君の身体能力も凄まじいよ。ごらん、受け止めた手が痺れてしまったよ」


 確かに痺れているようで、見やすいように差し出した右手が痙攣しているのが見える。


 演技だとして俺には看破できないが、そんなことはどうでもいい。次はもう少し力を入れればいいだけのことだ。


「そんな君に問いたい。この世界は生きにくくはないかい?」


「……いや、特には」 


「人間というものは異常な力、というよりも他と違うというだけで嫌われる、そんな生き物だ。その力をいつから身に着けているのかは知らないけど、初めてその力を見た人間の表情はどうだった?」


「……引かれた気が」


「恐怖の感情が無かったかい? 僕は唯一の理解者だと思ってた両親から向けられたんだよ。あの時の気持ちは忘れられない。下っ端はどうだか知らないけど、少なくてもここにいる幹部は同じ境遇の人間ばかりだ。力あるものは、同じ境遇の理解者が必要だ。だからこそ、僕たちはこうして新たな世界を創ろうとしているんだよ。君も僕たちの組織に入らないかい? 今なら幹部にしてもいい」


 いきなり何を言い出すんだ。


 というか、人の話を聞いてくれよ。他者を理解するには、まず会話が必要だと思うぞ。

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