美女と野獣
「ちょ、待ってください。師匠!」
ミリカは慌てたように師匠に……師匠!?
「納得できません。なぜ、私がこんな冒険者ギルドに登録したばかりのひよっことパーティーを組まなくてはならないんですか!? 絶対嫌です!!」
確かに登録したばかりのひよっこだけれど、そこまで拒否しなくても……。
ミリカはとても嫌そうに拒絶の反応を示していたが……。
「ソウイチさん、すぐにとは言いませんが考えておいてくださいね」
シンシアさんは無視していた。
「でも、ミリカさんは嫌そうですけど……」
「当たり前です。誰が、自分よりも格下の人とパーティーを組みたがりますか。だいたい、見るからにひょろっとしていて、強そうに見えません」
初対面の人に色々ぶっちゃけすぎじゃないか、この子?
「ミリカのことは大丈夫です。明日までには説得できますので」
「はあ……」
「ソウイチさんもソロなのでしょう? でしたら、パーティーを組んだ方が良いと思いますよ? ソロで活動し続けるのも無理があると思いますし……何より戦力としては十分だと私が保証します」
「……わかりました」
ここまで言われたら、頷かないわけにはいかないよな。魔法が制御不能という不安はあるが、何とかなるだろう。それに、シンシアさん美人だしここで良い印象を与えることで後々のフラグに……。
「何だ、中庭にいたのか」
するとまた、来訪者のようでこちらに歩いてきてる男の姿が……ゴンドさん?
先ほど、冒険者ギルドで会ったゴンドさんがいた。
「あら? あなたがここに来るなんて珍しいわね」
ん? シンシアさんの雰囲気が、変わったような……。
「おう、お前にも知らせておこうと思ったことがあったんで、寄らせてもらった」
「知らせておくこと?」
「ああ、今日冒険者ギルドで……って、ソウイチ? なんでここにいるんだ?」
こんなに近い距離まで歩いてきて、やっと気づいたようだ。
近眼か? でも、シンシアさんのことは普通に気づいてたよな。
「先ほどぶりです。ここには、クエストでやってきたんです」
「クエスト? あー、あの岩のやつか」
どうやら、ゴンドさんも知ってたっぽいな。
「そういえば、あの岩が見当たらねえな。ミリカもいるし、2人でどかしたのか?」
「いいえ、ソウイチさんが全部やってくれましたよ」
「え?」
「……は? こんな短時間でか?」
なぜ、ミリカまで驚いているのだろうか。
「ええ、こんな短時間で……です」
短時間でを強調するが、そんなに量は……多かった気がする。ステータスを強化されたのが大きいんだろうな。
「なるほどな、やっぱし俺の勘は当たってたみたいだな」
「それで、私に知らせることがあったのでしょう? あなた?」
あ・な・た? ……まさか。
「ああ、ここにいるソウイチのことを言っておきたかったが、もう知ってるみたいだしな」
「ということは、アルミラちゃんを?」
「さっき、ギルド内で話してきた」
「そういうこと……」
2人の間での意思疎通が完璧すぎる。
「ちょ、ちょっと待ってください。ソウイチ、あなただけであの岩をどかしたのですか?!」
なんかすごい剣幕だな。さっき、話しただろ。……1人でとは言ってなかったか。
「そうだけど、ハンマーが凄かったというのもあるから」
「あのハンマーで地道に削っていったとしても、数日はかかるはずです。何か、魔法を使ったんですか?!」
「いや、地道というか一撃で粉砕できたけど……そもそも魔法使えないし」
「一撃……」
一撃ということに驚いたのか、口を半開きにさせたまま固まってしまった。
「一撃はすげーな」
ゴンドさんは感心しているように呟いた。
「そのハンマーっての、見せてくれるか?」
「どうぞ」
さっきまでミリカが持っていたと思ったが、いつの間にか地面に置いていたようだった。俺はそれを片手で持ち上げ、ゴンドさんに手渡した。
ゴンドさんが片手で受け取った瞬間……落とした。さっきと同じ光景を見ているようだ。
「重っ!!」
そんなに重いのだろうか。俺は片手で普通に持てるんだが……。
「なるほどな。これは納得だ。こんなもの片手で持ち上げるって、どんな筋力してんだ。見たところ、身体強化の魔法もかけてないみてーだし」
失礼な……人を化け物みたいに。これもおまかせ機能の恩恵なのかもしれない。
「あのー、少しお聞きしたいことがあるんですが」
「ん?」
ハンマーのことはさておいて、俺は確かめておきたいことがあったので質問してみた。
「シンシアさんとゴンドさんの関係って……」
「ああ、言ってなかったか? シンシアは俺の嫁さんだ。俺にはもったいないくらいだがな」
「あらあら」
……うん。だと、思った。思ったよ。フラグは即座に叩き折られるのが世の常だもんな。桃色の雰囲気漂わせてればそうだよな。……でも、見た目は完全に美女と野獣。
俺は世界の理不尽を感じた。




