説明が無いとわからない
気が付いたら、白い空間にいた。
周りには何も無く、本当に無という空間そのものな感じだ。
「これは、よくある転生ものの神様とか出てくる場所……?」
ということは、俺は24年という生を終わらせてしまったのか。
何が原因なのか、全く覚えていない。いつも通り会社に出社して、いつも通り上司に怒られ、いつも通りに帰宅した。そのはずだった。
「というか、神様的な人がいない」
死因が何だったのかはわからないので、次のことを考えるようにしよう。切り替えは大事だ。それに、こういう小説を何度も読んでいる者としては、憧れていた場面だ。
しばらく待っているが、一向に神様的な人が現れる気配はない。
「おかしいな。こういう場面なら、神様的なのが出てくるはず。そして、転生の説明があるはずなんだけど」
この何もない白い空間に1人だけでいると、とても落ち着かない。
「そもそも転生なのか? 転移なのか?」
独り言をぶつぶつ言ってる俺は、完全に危ない人だが仕方ない。この空間に1人しかいないから、誰に見られるわけでもない。何より、気を紛らわせてないと頭がどうにかなりそうだ。
突然、目の前が光り出した。すさまじい光量だったため、目を開けていられなかった。
ついに神様的なやつが登場か!?
と身構えていた俺だったが、目を開けたらそこは
「……え? 木? いや、ここどこ?」
大自然が目の前に広がっていた。周りを見渡しても見えるのは、木ばかり。
「……」
しばし、茫然と立ちつくしていたが、何も変化はしない。あまり日の光が届いていないのか、薄暗い森の中に少し風が流れていく程度。
あ、ひんやりとした風が心地いい。
「いや、そんなことよりも神様的なのは?! 説明は?! 実は白昼夢でしたってオチ!?」
叫んでみても、神様的な存在の登場はなかった。
とりあえず、情報収集をしなければならない。こんな森の中にいたら、野生の動物や異世界ならそれこそ魔物が出てきてもおかしくない。
「異世界といえば……ステータス!!」
そうだ。ここが異世界なら、ステータスが見れるはず!
「ステータス……オープン!!」
しかし、何も起こらない。
言葉を間違えたのだろうか。
「メニュー!!」
……。やっぱり、何も起こらない。
この後、何回か違う言葉で試してみたが同様の結果に終わった。ちなみに、魔法名を唱えてみたりしたが一切何も起こらなかった。とても、恥ずかしくなった。
「やばい、詰んだ……」
近くにあった平べったい岩に腰かけてこれからのことを考えてみるが、お先真っ暗である。
サバイバル技術など、もちろん無い。森の中に1人。ここが異世界でなく、日本だったとしても間違いなく詰んでいる。
「考えていても、仕方ない……」
ここにいても、状況は好転しないだろう。ならば、歩いて森を抜けよう。もしかしたら、そんなに深くないかもしれない。
「……」
あれからけっこう歩いたと思うが、同じ景色が続いているような錯覚を覚える。
さすがに疲れてきたので、近くにあった平べったい岩に座って休憩する。
「あれ? これ、さっき座った岩?」
座った岩には先ほど、身体能力も上がっているのではと思い、蹴った跡があった。結果は、足が痛くなっただけだった。
とても綺麗な岩で、靴の跡がくっきりと残っているのは印象的だ。
歩いて進んでいたと思ったら、ぐるっと回ってきていたのか。ただの疲れ損じゃないか。
「……ん? 何だ、これ?」
地面に跪いてうなだれていると、手のひらサイズのパネルみたいなものが岩の側面に埋め込まれているのが見えた。
何とはなしに触ってみると、
『認証を確認しました。システムを起動します』
機械的な音声とともに、岩が起き上がる。それは、2mほどの大型の液晶のような感じだった。
『これより、異世界へと転移するための設定を行います』
……。
『必要事項を入力してください』
目の前には、ステータスやスキルなどのゲーム内でみたことのある項目が多数存在していた。
「今まで歩いていた俺の労力を返せ……」
俺は脱力し、そうつぶやくことしかできなかった。