表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある雨の日のできごと…

作者: 鶯襲花山吹

黒い雨が降っている。

雨の中に、黒と灰のビルが林立していた。

そのあいだに、私の探していた真っ白なビルが建っている。

大きいわけでも、高いわけでもないが、何か異質であり、天国へも近いような気持ちにさせる清浄さもある。

自動ドアが開き、私は、白い建物の中に吸い込まれた。

「14:00に予約していた者ですが」

「かしこまりました。では、4階へお上がり下さい」

人はいなかった。

私の声に反応して返しているだけのようだ。

壁に口が開いたように、エレベーターが私を待ちかまえていた。

中に入るとドアが閉まり、ドアの上方にある板面の白い数字が、大きくなっていった。

「4カイデス」

声とともに、ドアが音もなく開いた。

エレベーターの前からフロアの奥まで見渡せるところだった。

人は、ほとんどいなかった。

私は動くことができず、そこに立っていた。

そこに、女性いや、少女といっても良いくらいの人が来た。

「14:00から予約していた方ですね?」

「はい、そうです」

「では、こちらへどうぞ」

彼女に付いて、私は応接室へ通される。

「少々お待ち下さい」

扉は閉まり、私は一人になった。

とりあえず、ソファに座ることにする。

部屋に慣れてきた頃、扉がノックされる。

「失礼します」

「はい、どうぞ」

現れたのは、先程の少女だった。

分厚いファイルを持っている。

「お待たせしました」

彼女は、ファイルをテーブルに置き、私の前に座った。

「こちらは、弊社が持っている人員名簿です」

ファイルが開かれる。

「こちらで、少し探してみましたが、''アサギ”という名の者は見つかりませんでした」

「そう、ですか」

「ですので、今一度お客様に目を通してご確認いただけると助かります」

「分かりました」

ファイルの中身は、「あ」から順に50音で並んでいた。

それから、私は「あ」行の中の「さ」行を何度も往復した。

「ない…です」

私はファイルを閉じた。

「お力になれず、申し訳ありません」

少女はそう言って頭を下げる。

その時、扉がノックされた。

「失礼致します」

「どうぞ」

お茶を持って入ってきた者に、私は目を奪われた。

私の探している人物にそっくりだったからだ。

「では、失礼致しました」

そう言って、その者が出て行くまで、私は全く動くことができなかった。

「どうかいたしましたか?」

目の前の少女に声をかけられて我に返った。

「い、いえ、今の人が、私の探している人物によく似ていまして…」

「…そうですか、では、呼び戻しましょう」

「え…あ、はい」

彼女の有無を言わせぬ言葉に気圧されながら、うなずく。

そして、白い扉から出て行き、人を一人連れて戻ってきた。

「何か御用でしょうか?」

「この方が、あなたを自分が探している人物と似ていると、言ってらしたので」

「そうですか」

その人物は、私の方を見た。

ぞ、と鳥肌が立った。

とてもよく似ている、よく似ているはずなのに、作り物のような違和感が背を這い上がってくるのだ。

「私はFと申します」

「エフ?…アルファベットのですか?」

「そうです」

「フルネームで、Fですか?」

「そうです」

「…''アサギヨウスケ”という人物を知っていますか?」

「いえ、存じ上げません」

「身内の方とかでもいませんか」

「…私は、生まれた時からここに存在するだけなので、知りません」

「生まれた時…からですか…」

そんなことは何かの、例えか、冗談かと思った。

「そうです。ここにいる者は、皆そうなのです」

少女は、微笑みながら言った。

冗談ではないのだと、二人の顔でわかった。

ここで生まれるのか、皆。

だとしたら、私の知っている人物はここにはいない。

目の前の者も、他人の空似ということだ。

すると、私の視界はぼんやりとにじんできた。

二人の人物は、白い背景に二つの黒い染みのようにぼんやりしてくる。

あぁ、そうだ

ここにはい














































ない。







































は、と我に返った。

私は、最初のエレベーターの前に立っていた。

どうやって、ここまで戻ってきたのか思い出せない。

頭のずっと奥の方に、白いもやが掛かったようになっているのだ。

そして、しだいに無くなっていく。

外はまだ黒い雨が降っているようだった。

傘をさして外に出る。

数歩歩いていく、ふと、私は何をしていたのだろうと思い振り返った。

しかし、そこには何もなく、前方と同じ黒と灰のビルが林立しているだけだった。

そして私の記憶も、雨の中に消えていった。


end…




アサギヨウスケは、漢字で浅黄葉助です。

人探しをしている私は=英語のIと同じです。つまり、女の人が言っているとは限りません。

楽しんでもらえたら幸いです。

作者名、ウグイスガサネノハナヤマブキです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ