紅の部員承認
入学式の夕方ごろだったか秋菜に言われた通り教室に残っていると、真剣な面持ちで教室に入ってきて俺に近づいてくる。
そして、何やら白い用紙を俺の顔にかざしてくる。
「見なさい入部届けよ!」
にこやかにそう言うと、思い出したかのように手に顎をのせ何かを考え出す。
「部員数が少なすぎるわ。忍も思うでしょ」
まぁ確かに思わざる得ないな。
部を設立するのも容易なものではない。
あの怪異な生徒会長に届け出をし、それを承認してもらい部ができあがるのだ。
「まずは入ってくれそうな人を探しましょう」
それが賢明だろうな。
「とは言ってもどうするんだよ?」
「まずそこからなのよねー」
腕組をして俺から目線が外れる。きっと思考を巡らせているのだろう。
俺も秋菜から視線を外して窓に移す。
紅の光が教室に入り込んでいる。
ここまで綺麗な紅の世界を味わったのはいつぶりだろう?
記憶を想起し始めるが、うっすらとしか思い出せない。
「夕暮れが街を照らしているわ」
秋菜も窓から夕暮れを見ていた。
なんか心が整頓されるよ。
「それで何か方法は見つかった?」
「えっ?」
突然、現実に戻されて反応が鈍い。
ここで話題を元に戻したか。
「聞いてた? 方法よ方法」
「何も考えていません」
作り笑いを浮かべて、この場を取り繕うとしたが秋菜は少しだけ呆れているようだ。
それは腰に手を当てて溜め息を吐いたからすぐにわかった。
「いいわよ部員集めは私がやっておくから」
聞き捨てならないな。
俺にも部員としてやる義務があるはずだ。
「秋菜」
「何よきりっとして」
俺が表情を一変させたからか少々驚いている。
「俺にも部員集めやらせてくれ」
「何突然? あんたを部員として認めた覚えないけど?」
「それなら今ここで部員として認めてくれ!」
俺は心の内を言い切った。
何で俺はこんなこと言ってるんだ?
「あんたからそんなこと言い出すなんて予想外すぎて・・・・・・・ちょっと待って」
手のひらを俺の顔の前に出して、頭を抱える。
「整理がつかない」
そう呟くと、手のひらが俺の前から消えた。
「あんたを部員として認めてあげるけど」
「けど?」
なんか嫌な予感がするぞ。
「私が部長だから、トップだから、私の言うことは絶対よ」
やっぱりかー。
溜め息を漏らして、頭を垂らす。
「嬉しくないの? 認めろって言うから認めてあげたのになー」
けなすように言うと俺の机に置いておいたカバンを手に取る。
もとはお前が条件付きで許してあげる、とか口走ってたのに。
それに応えたのに。
「じゃあ明日からは部員集めね。片っ端から勧誘しましょ」
嬉しそうに鼻歌を歌いながら紅に染まった教室を去っていく。
俺の心は青く染まってるよ。
何でいつも俺はやぶ蛇なことを言いはなってしまうのか。トホホ。