部の顧問
五月に開催されると思しき野球大会に出場するのでそのメンバー集めのために教員の集う一室にやって来た。
俺は今、職員室の一角にある職員用休憩室のテーブルで一人の先生と話し合っている。
「野球は何人で行うスポーツだ?」
呆れたように聞いてくる目の前の女性教師は毛先が外側に少し巻いている後ろ髪を腰くらいまで伸ばして 大人の色気を漂わせている一年生主任の樋山先生。
野球大会の出場申請用紙の受け取りも樋山先生が担っているようだ。
「聞いてるか篠藁」
なんで美人なのに独身なんだろう? 俺がもし先生の同級生だったら惚れてたな。
「しのわらーーー?」
「ああすいません」
樋山先生の顔が拳二つ分程度しか距離がないところまで近づいてやっと我に帰る。
まじまじと見つめてくる。
俺を見つめていた目が怪しむように細くなる。
「野球大会に出たければ九人はせめて集めないといけないんだぞ? わかってるよな?」
「はい。だからこそ先生に顧問になってもらい野球大会のメンバーにしようと・・・・・・」
目の前に先生の右手のひらが突きつけられ俺の言葉は遮断される。
「メンバーの前になぜ私がお前らの部活顧問にならないといけないんだ。篠藁だって女だらけじゃ居心地悪いだろう?」
こうなった過程を説明しようじゃないか。
「生徒会長が顧問がいないのでは部活として認めない 、とか豪語したらしくて、それで秋菜が樋山先生を顧問にしよう、とか勝手に決めて俺に押し付けて現在に至る」
「篠藁も可哀想だな」
同情したように、苦笑い。
それを見て俺も同じように笑う。
「可哀想と思ったなら顧問になってください」
真剣な顔に戻して先生を凝視しながら頼み込んでみる。
すると手に顎を置いて何か考え始める。
そして何秒か経って顎を置いていた手を離して腕を組み脚も組みまるで上からものを言うような態度で、俺を見る。
何を言い出す緊迫する。
「条件付きでどうだ。生徒の相談受けつける部にするのなら顧問になってやる。悪くない条件だろう?」
確かに悪くはない。しかし秋菜に黙って了承していいわけがない。
「自身がどうするかだ。他人がこう言うからとかそんなのどうでもいい、自身にメリットかデメリットかそれだけだ」
諭すように俺に言葉を掛けてくる。
それなら俺はこっちを選ぶ!
「樋山先生。これからよろしくお願いします」
居直って深々と頭を下げる。
「わかった。今日から部室行くからな」
下げていた頭を上げて礼の言葉を口にする。
「ありがとうございます」
そう言い残して俺はその場を立ち去った。