始まりの陰
自分が誰なのか。
分かる。
自分がどこにいるのか。
分かる。
自分が何を見ているのか。
理解できなかった。
目の前にあるのが何か?
人の形をした物。
肉の塊。
魂の器。
そんなものではない。
今までに見てきた死体とはまるで違う。
手足がおかしな形をしている。
肉がまるで獣に喰い千切られたようだ。
一冊の本が落ちている。
どうでもよかった。
でもその本に手が伸びた。
目の前の肉の塊から意識をそらしたかったのかもしれない。
本を持ったがどうしていいのか分からなかった。
しばらくしてこの場から離れると言うことを思いついた。
肉の塊はそのままである。
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やっと落ち着いてきた。
自分が河辺にいることに初めて気が付いた。
今まで見たこともないものを見ると人はあれほどまでにどうしょうも無くなってしまうのか。
あれのことは考えないようにした。
持ってきた本をどうしようか考えることにした。
「銀中秘奥」字は読める。
表紙には何の飾りもないただその四字が書かれていた。
開いてみる、それは武芸書だった。
あせった、あの死体は江湖の人間だと察したからだ。
死んだ原因も察しが着いた。
この本のせいで死んだのだ。
大変なものを拾ってしまった。
今度は自分が肉の塊になる。
恐ろしかった。
「おい、小僧」
低い声、男の声。
恐怖しかなかった。
いつの間にか男が目の前にいた。
間違いなく江湖の人間だ。