第一話 『僕とクソッタレになった世界』
ちょっとした思い付きからのシリーズ連載です。
毎回、出来れば5千字ぐらいの短いやつでやれないかと模索しています。
課題終わらないですし、色々むちゃくちゃなこと言われるしで、世の中は『クソッタレ塗れ』ですけど、今日もアイスは美味しいです。
私の神は雪見だいふくです。
世界はクソッタレだ。
滅亡しろ。
そんなこと言えるのは、世界が本当に滅びないと知っているから。
だからクソッタレって思うし、滅亡しろとも思う。
というか、本当に滅亡したら僕が死んでしまう。それは嫌だ。世界は滅亡してもいいけど、僕の命だけは助けて欲しい。随分まぁ、我が儘な願いだが、大方、他の人間だって似たようなものだろう。
だって、世界が滅亡すると言われて、一番最初に人間がすることと言えばなんだ。
世界が滅亡することへの嘆き? そうじゃない。本当に嘆いているのは、滅亡することで自分が死ぬことだ。世界滅亡=自分の死。そりゃあ、当たり前の方式だ。
けど、人間ってのはおかしな生き物だ。どれだけ絶望の淵に立たせられていようと前を見据える人間がいるように、一度底辺まで成り下がったのに這い上がって来る人がいるように、ここぞとばかりにあり得ない力を発揮する。
そう言えば、以前、友人が言っていた。人間、一度吹っ切れるとなんでも出来るもんだって。
その吹っ切れた友人は今頃、自分のことをイジメてきていた両親を吹っ切れて刺した罪で、檻の中にいる筈だ。逮捕されたそのとき、最後にテレビに向かって、「ざまぁみろ!」と叫んでいたのが、僕が見た彼の最後の姿だ。
けど、果たして彼がいるその場所が、今の世の中で、しっかりと起動しているのかわからない為、友人が餓死していないかどうかっていうのは微妙だ。まぁ、しぶといキャラだったし、なんだかんだと生きているような気はする。
まぁ、そんなわけで、人間は一度吹っ切れるとなんでもありになるらしい。
たとえば、世の中が滅亡すると言う絶望の淵に立たされ、死にたくないとあれほど騒いでいたうちの両親達が、その翌日に、首を吊ったように。
第一話 『僕とクソッタレになった世界』
「おい、ガキ。なにモヤシよけてんだ」
ふいに、僕のどんぶりの中の行動に気付いたらしい、葛柳さんが眉間にしわを寄せながら言った。
それは、お巡りさんという彼の職業には全くもって似合わない程の凶悪面を更に犯罪者寄りにさせるに十分なもので、付き合いが少し長い僕じゃなければ、子供は一瞬にして泣き出すだろう。
「……嫌いなんですよ、モヤシ」
「あぁ? てめぇ、好き嫌いしてんじゃねぇぞ。誰の金で食ってると思ってんだ」
「そ、それは……」
そう言われてしまっては、僕は手も足も出せなかった。
数刻前、街中を当てもなく歩いていたところ、パトロール中の葛柳さんに出会い、このラーメン屋に連れて来なければ、僕はそのまま空腹で死んでしまっていた可能性があるのだから。
「おら、食え食えっ」
「げっ、ちょっと、やめてくださいっ」
言うが否や、彼が自身の食べていたラーメンに備え付けられた山盛りのモヤシを僕の方にと投げ入れて来た。うぎゃっ、汁飛んで来たっ。
着ている学ランについた汁に叫び声をあげれば、葛柳さんが愉快そうに笑う。そんな僕らを見て、「お客さん、店内を汚さないでくださいよ」と店主であるおじさんがカウンター越しに、眉をひそめながら言った。
と、そのとき、店の外からけたましいエンジン音が聞こえたかと思うと、津語の瞬間、メガホン越しらしい拡張声が、響き渡って来た。
『みなさん! 神は確かにこの世にいるのです! 今この瞬間、神は、救うべき人間を選んでいるのです! 神を信じ、神に必要とされる人間だけが、この絶望の淵から救われることが出来るのです! 神の作りし楽園の扉! それを開く人間こそ、生き延びることが出来るのです!』
「まぁた『楽園』の連中かよ。うっせぇな……」
再び、葛柳さんの眉間に深いしわが寄る。僕も顔には出さないものの、彼の言葉に内心で同意しながら、店の戸の方へと顔を向けた。
「ここ最近、以前に増してうるさくなりましてね」
やれやれと言わんばかりに、店主のおじさんが首を横に振った。半ば諦めていると言いたげな声音だったが、その顔は露骨に嫌だと言っていた。
ふいに、葛柳さんが席を立った。そのまま、店の戸の方へと足を運んだと思うと、勢いよく戸を開け放った。
「うっせぇぞぉっ! 飯時ぐらい、黙って食わせろっ! 人の至福の時間奪って、なにが絶望からの救済だぁっ!」
「ちょっ、ちょっと!? 葛柳さん!?」
アンタ何してんの!
思わず慌てるものの、その時点ではメガホン越しの声はほとんど遠ざかっており、もう聞こえなくなっていた。それがわかっていての行動だったのか、葛柳さんは、ハッと鼻を大きく鳴らすと、店の戸を閉めて再び僕の隣に戻ってきた。
「前々から一度、言ってみてぇって思ってたんだ。ほらよ、選挙が生きていた頃は、住宅街を巡る選挙カーとかさ、あれ、クッソうっさくなかったか? 滅多にない非番の日とかに来られるとマジで腹立ってよ。誰が票なんか入れてやるかって、結局、一度も投票しに行った試しなかったな」
「アンタ、仮にもお巡りでしょうに……」
「こんなクソッタレな世の中で、今更お巡りもクソもあるかよ」
「なぁ?」と葛柳さんが制服の胸ポケットからタバコを取り出しながら、店主に意見を求めた。
苦笑いをしつつも頷く店主の心中を察しながら、胸ポケットって普通、警察手帳とか入れる場所じゃねぇのかよ、と心の中で僕はツッコんだ。
『こんなクソッタレ』と世の中が呼ばれるのは、昔からずっとのことだった。
テストを受ければ赤点。さすれば世の中クソッタレ。
ゲームをすれば難しすぎて詰む。さすれば世の中クソッタレ。
クリスマスに自分だけ用事がない。さすれば世の中クソッタレ。
世の中はなにかとクソッタレ塗れだった。
が、それでも世の中は上手い事回っていた。人々は普通に生活をしていたし、大抵の安心は守られた。だから、クソッタレ塗れでも、皆普通に生きた。たまに、滅亡しろと願うことがあっても、まぁ、その程度のもの。
そんな世の中が本当に『クソッタレ』と呼ばれるに相応しい無法地帯になったのは、かれこれ半年前程のことだ。原因は、突然テレビで流された地球滅亡のニュース。
なんでも、観測されたことのない隕石が今、現在進行系でこちらに向かってきてるそうだ。専門家の人々によれば、あと一年程で地球にぶつかるだろうとのことだった。
最初は嘘だろうと人々は言っていた。運悪く、その日はエイプリルフールでもあった。でもニュースが流されたのは昼だ。エイプリルフールは午前中だけ、というのは果たしてどれくらいの人類が知っている常識なのだろう。
エイプリルフールが終わっても、連日流されるニュースのおかげで、ようやく人々はそれが本当のことであると気付いた。
それからはもう、阿鼻叫喚としか言いようがない。
行く宛てもないのに車に乗って逃げようと人達のせいで、道路が渋滞だらけになった。
スーパーはなんでもいいから食糧を手に入れようとした人達のせいで、全てすっからかんになった。
それでも手に入れられなかった人達が、そこら辺の鳥や犬猫を食糧にした所為で、いつの間にかこの辺りから動物はいなくなってしまった。最近では、動物だけではなく街中を歩いていると人間すらも襲われるようになったので、本当に食糧の危機などに陥ったとき以外で外に行くのは危険な行為だった。
ちなみに、万が一外で死んだら、死体は追剥ぎにあう。使える物を探している人々が、僕の体から色んな物を取って行く。それはもう、無様な死に様だ。絶対に拒否するべき事柄だった。
電気はつかない、働く人がいなくなったから。かろうじて水は出る。が、その水もなんだか少し濁り気味になっていた。ろ過する人がいなくなったから。
こうして、世の中は『クソッタレ塗れの世界』から、『クソッタレな世界』へと昇格した。レベルアップの祝いの歌は、流れる筈がないし、流させたくもない。
けど、世の中とはおかしなことに、恐怖に駆られて狂う人間がいれば、その真逆も存在した。全ての事柄は表裏一体だと、なんか誰かが言っていた気がするが、まぁ、つまりはそういうこと。
葛柳さんと僕が出会ったのは、かれこれ三か月前のこと。恐怖に駆られ狂う側になってしまった僕の両親が、僕を置いて勝手に首を吊って死んでしまった翌日のことだった。
こんな世の中、墓は建てられないし、とりあえずは庭に埋めようと固い地面を掘り返していたときだった。パトロール中の葛柳さんがたまたま通りかかったのだ。
『おい、ガキ。死体遺棄は懲役三年の刑だ』
『……お巡りさん。法律がまだ生きてると思ってんの?』
『うんにゃ、別に。でも、万が一、地球が滅亡しなかったらお前は刑務所行きだな』
そう言ってニヤリと笑った葛柳さんは、乗っていた自転車を降りてズカズカと庭に入って来た。それに唖然としていると、僕のスコップが彼に奪われた。
『なにするんだよっ』と慌てれば、『掘ってやるよ』と葛柳さんが言った。
『万が一、地球が滅亡しなかったらお巡りさんが捕まるんじゃない?』
『バレなきゃいいんだ。それに、ちゃんとバレねぇよに埋めねぇと、追剥ぎに合うぜ』
『今の世の中、クソしかいねぇからな』、そう言って葛柳さんは僕の両親を埋めるのを手伝ってくれた。
以来、なにかと付き合っている関係にある。
口は悪いし、凶悪面だし、性格は世の中に負けずクズだが、それでもこの街の中では、まともに属するタイプの人間だ。
彼の誘われて来るようになったこのラーメン屋の店主だってそうだ。こんな世の中で、未だに店を開き続けているというその根性は理解し難いが、中身はまともな人だ。
「そういや、『楽園』と言えばお客さん。アンタのところには手紙が来ましたかい?」
「あ? 手紙?」
ふいの店主の言葉に、ギクリと僕の肩が揺れた。が、二人はそれに気づくことなく、会話を続けた。
「最近、ここいらでちょっと噂になっているんですよ。『アナタには楽園に行く価値があるかどうか』って、手紙。なんでも、それをさっきの『楽園組合』の車に渡せば、その価値を調べてくれるんだとか」
「ばっかじゃねぇの。楽園なんてあるわけねぇだろ」
タバコの煙を吐きながら、葛柳さんが言った。鼻孔の中に広がるタバコのにおいに、少しだけ僕の胸がむかっとした。
『楽園組合』。それは、世の中がクソッタレになってからいきなり現れた。
彼らは、この地球滅亡は自分達に対して神々が与えた試練なのだと言う。神はここで生き残るべき清らかな人間を探しており、楽園の扉を開けて待っている。
見るからに怪しい集団だが、噂では、その楽園とやらは膨大なシェルターで、逃げ込めば本当に助かるなんて話もあったりする。
でも、こんな世の中だ。信憑性はそんなに高くない。
「楽園なんてねぇから、こんなクソッタレな世の中で生きてるってわかんねぇのかね」
「……でも、最初の人類のアダムとイヴは楽園の出身でしたよね」
「うっせ、ガキ。ここは日本だ」
黙ってモヤシ食ってろ、と再び葛柳さんが僕のラーメンの中にモヤシを投げ入れた。
「はぁー、食った、食った」
ガラリと店から出ながら、葛柳さんが身体を伸ばした。その後を追うようにして、僕も外に出る。「ごちそうさまでした」と店主に向けて頭を下げれば、「また来いよ」と笑いながら手を振り返してくれた。
冬が近づいているからか、外は寒かった。冷たい風が僕の頬を撫でながら去って行く。しかし、暖かいものを食べて胃が満たされている所為なのか、あまり寒いとは思わなかった。
「そんじゃまぁ、残り半日、元気に働くかね」
「パトロールですか?」
「当ったりめぇだろ」
「毎日毎日、意味もないのによくやりますね……」
店の横に止めてあった勤務用自転車の鍵を外し始める葛柳さんの姿にため息をこぼしながら言う。「しゃーねぇだろ」と葛柳さんが、どこか罰が悪そうに唇を尖らせた。
「それ以外、やることねぇんだから」
「……」
言い得て、妙だった。
今の世の中、やれることの方が少ない。ゲームをやろうにも電池がない。漫画を読もうにも、続きを描く人がもういない。仕事をしようにも金をくれる人がいない。
仕事も遊びも、ままならない。もちろん、生活もだけど。
僕だってその内の一人だ。
「暇人ですね」
「言ってろ。つぅか、お前、どうする。家帰るなら送ってくぞ」
葛柳さんの言葉に、一瞬甘えたくもなるも、首を横に振った。
「行くとこがあるので」と、肩に下げていた学生鞄をワザとらしく背負い直す。その行動にそれがどこなのか察しがついたらしい葛柳さんがニヤリと笑った。
「お前も大概暇人だな」
「うるさい、暇人」
これ以外、やることないんだよ。
こんにちは、勝哉です。間違えて一度短編にあげました。いつも短編ばっかやってるからです。馬鹿です。うひぃ。
そんなお馬鹿は、最近、某ゲームキャラじゃないですけど、世の中ダメ過ぎちゃうか、というか、身近な環境ダメちゃうかって憤り過ぎて、「世の中クソだ」って本気で吐き出したくなったので形にしました。
と言っても、まだ始まったばかりですし、『楽園組合』も彼らからの『手紙』タイトルの『神様』も、まだ色々引っ張ります。他にも登場人物も増やしたいなって思ってますし、お付き合いいただけたらと思います。