白いもの
雪は聞いたことがあった。
「人間には二種類ある。恋愛が好きな人間とそれを知らない人間だ」
しかし、彼女はいつも思う。
確かに私は恋愛というものについて、実質的な経験を多く積んできたわけだはないけれど、恋愛が嫌いな人間というのもいるはずだ、と。
人間は精神という真に自由で孤独な一種の性質を持っている。それは自由でありたいと思うほど孤独を深めていくものなのだ。
雪の求めるものは何よりも自由であることだった。
精神についていえることは肉体でも同じことが言えるだろう。
つまり、彼女自身一人でいることの気軽さに何物も代えることは出来なかった。
増してや恋愛の代償に自由を差し出すなんてことは彼女には考えられないことだったのである。
彼女の母親は厳しい人だった。
「やるべきことをやってから、やりたいことをやりなさい」
「人は人、自分は自分」
よく言われたこの二つは彼女のゆがんだ性格形成に一役買っているかもしれない。
もちろん、雪に言わせれば歪んでいない性格などない。
特に人間の心というのは闇が濃ければ濃いほど、光が強くなるものなのだ。
だから雪は自分の考えを貫くことを決めた。
彼女は薔薇のように棘がある。その棘は表面に付いているのではない。その棘は彼女自身に深く突き刺さった反対側からほんの少し頭をのぞかせ、周囲の人をきずつけてしまうのだ。