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野良怪談百物語

息苦しい

作者: 木下秋

 梅雨だった。やはり毎日のように雨が降り、憂鬱だった。


 プールや風呂に入ることは好きだ。完全に濡れてしまうのはいい。しかし、じめじめとまとわりつくような湿気は嫌いだ。服が濡れるのも、カバンが濡れるのも、靴が濡れるのも嫌だ。紫陽花がどんなに綺麗に咲こうとも、嫌いなものは嫌いなのだ。私は、梅雨が大嫌いだ。



 ――その日。朝目覚めると、森の中にいるような湿気が室内に漂っていた。窓は開けていた。夜の間に、雨が降ったらしい。身体にかけていたタオルケットも、枕も、身体中も湿っていた。気分が悪かった。


 数時間後、毎日の日課にしている朝読書。“怪談”を読んでいた。しかし、なんだか集中できない。湿気だけのせいではない。何故だか無性に、“息苦しい”のだ。


 小説を書くことを趣味にしている私は、この息苦しさを何に例えようかと、無意識に思う。……。



 “まるで、人のたくさんいる部屋にいるような”……息苦しさ。



 部屋を見渡す。……もちろん、誰もいない。想像した。この部屋に、私の見えない存在である者たちが、蠢いているのを。



 ――立ち上がり、カーテンを全開にした。しかし、雨空の光は頼りない。


 湿気が嫌なので閉めていた窓を開ける。……しかし、そこに見えない膜でもあるかのように、外気が入ってこない。なんとも言えない息苦しさに、不吉なものを覚え始めた。


 ドアを開ける。しかし、その向こう側にある空気は部屋にあったものと同質だった。


 窓の元に戻り、今度は網戸を開ける。そしてその向かいに扇風機を持ってくると、風量“強”にして置いた。とにかく、室内の空気を循環したくてたまらなかったのだ。


 やっとホッとし、机に座ると、スマートフォンを手に取った。下部の丸いボタンを押すと、画面が明るくなる。しかし、次いで操作しようとした私の指が止まった。



 ――今一瞬、画面が明るくなる直前――真っ黒な画面に、何かが映った……。



 スマートフォンのつるつるとした画面は、夜の窓ガラスのように目の前の景色を映す。そこに一瞬、自分の顔ではない“顔”が映った気がするのだ。


 画面を再び暗くし、それを見る。そこには、見慣れた自分の顔があった。



 ……。



 私は思い立ったようにイスから離れ、窓の向こうに首を伸ばし、深呼吸をした。



 梅雨のある日に起こった、“本当にあった話”である。

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