プロローグ Beware the ides of March
ジュリアス・シーザー抜粋
(プロローグタイトル)
本話は途中で終了しています。
拓真が意識を失ったあと、3月15日の出来事を描いて、一話目が完結いたします。
もうしばらくお待ちください(泣)
尚、描写や表現も設定に合わせて鋭意修正中です。
ころころと細部の内容が変わる可能性がございますので、予めご了承ください。
大筋に変更はないと思います。
「ーー3月15日に気をつけよ」
老人のしゃがれた声に、拓真はぞっとした。
3月14日の晩。まだ肌寒く、桜の蕾に眠る花弁もいまだ起き渋る夜。
拓真がいつものようにぶらり裏路地に立ち入ると、不意に声をかけられた。
「もし、そこの御仁。占いはいかがかな?」
ハッとして振り返ると、そこには老人が口を半月状に歪めて笑っていた。
反射的に身構えそうになって、ようやく老人の言葉を反芻する。
「……占い?」
老人はさらに口角を歪めた。
「世界に纏わる、お主の起点についてじゃ」
「……はあ?」
頭のおかしいじいさんに絡まれちまった、と拓真は呆れ顔で嘆息した。
「なんだじいさん、占いだって? 金でもとんのか?」
老人は愉快そうに破顔する。
拓真はいっそう不気味に感じた。
「ほほっ、金なぞとらん。
そうじゃのぅ、占いという言い方が悪かったかの。
これはーー」
ーー預言じゃ。
「……預言?」
「然り」
ますます胡散臭い。
この老人は預言などして何の得があるのか。
それとも単なるボケた老人の世迷い言か。
ーーだが、だが何故か胸の内に渦巻く不安感が拭えない。
突然、老人は能面のような顔をした。
「3月15日に気をつけよ」
拓真は背筋が凍る錯覚に陥った。
頭の中で警鐘が鳴り響いている気さえする。
老人は虚空を見つめたまま、もう一度呟いた。
「3月15日に気をつけよ」
ぼうっ、と老人は静かに発火した。
青白い炎に包まれ、ゆっくりと前傾していく。
「お、おいっ」
拓真は近づこうとして、後ずさった。
老人は灰になっていた。
轟ッ!!
一瞬、立っていられないほどの風が吹き荒ぶ。
その風に乗せられて老人の灰は、そびえ立つビル群に切り取られた狭い空へ舞いあがった。
拓真がもう一度老人のいた場所を見ると、老人の着ていた服は綺麗に消えていた。
「……ッ!」
ドンッと、後退した拓真の背中に何かがぶつかる。
のっぺりとした顔がそこにあった。
目も鼻も耳も口もないが、それは顔だと思った。
身長2メートルほどのそれは、人の形をしていた。
手足は細く、滑らかな漆黒のボディ。誰もが知っている外見に当てはめるならば、マネキン。
そいつは拓真の胸に手を突き入れていた。
「…………は?」
血は流れていない、痛みもないが、確かに不気味なマネキンの手が拓真の胸に突き刺さっている。
心臓を掴まれた感覚がした。否、
「ぐぁ……!」
心臓を掴まれていた。
意識が急激に遠退いていく。
『Confirmed the artifact』
闇に呑まれる寸前、歪んだ機械音声が聞こえた気がした。