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第1章 10年間

ども。

前々からどこかで書きたいと思っていて、一度書いた話を練り直して、書き始めた作品です。

私の学生時代の出来事を多く投影しているので、わりかし個人的な話。

主な舞台は主人公達が高校生3年生の時ですが、1章ではその10年後の同窓会から幕が上がります。


どうぞ



 ホームに滑り込んできた車体が白い幕を僕の視界に下ろした。

その瞬間、僕は真っ白で無邪気な、無垢な世界にいるかのように感じてしまった。雪を伴った強い風と、2月の冷え込んだ空気が僕をそんな錯覚から呼び戻すのにそう時間はかからなかったが。


 肩にかけたカバンには同窓会の案内状が眠っている。僕はときたまそれを確かめるようにカバンに手を突っ込んだ。

 車内はガラガラだった。

 車窓から見た町並み。僕は心の中でため息をついた。


 ―――すっかり表情を変えてしまった。


 もう夕暮れだからか、うっすら影に包まれている景色。僕は10年という時の重みをひしひしと感じた。

 10年あれば、赤ちゃんは小学生にもなるし、さらに10年重ねればもう成人だ。あっという間に大人の階段を駆け上がっていく。

 そういえば家を出る前に母が言ってた。

「若い頃の10年は早いし、なんでも変わりやすいけど、歳を取ってからの10年は緩やかで何も変わらない」

 だから人生は坂を上るようなものだ、と感慨深そうに言っていた。僕と、僕の同窓会自体にはあまり興味なさそうだったけど。


 僕の家の近所にあったお好み焼き屋は、確か卒業と一緒になくなり、変わってステーキ屋だかができた。長く通っていた美容室は、店を切り盛りしていた親父さんが亡くなってしまったためもうない。中学の頃によく遊んだ公園があった場所には、今は背の高いマンションが鎮座している。

 どんどん、僕の知っている町はなくなっていく。でもそれに慣れてしまった自分がいるのもまた真実。


 電車が止まった。あとふた駅もすれば、目的地の駅に着く。

 すると僕は乗ってきた旧友に声をかけた。

「直人、久しぶり」

「あっ、脩平じゃん」

 パーマがかっている髪と眼鏡。直人とは度々会うから、これが1年ぶりくらいだった。彼は僕の隣に腰掛けた。


「へぇ。直人めちゃくちゃ頑張ってるじゃん、さすがだなオイ」

「そうでもないって」

 目的地の駅で降りた僕らは、駅の構内を歩いていた。少し見渡せばあちこちに僕らと同じような元同級生がいるのも分かった。

「脩平は今どうしてんの?」

「ああ、俺? 俺は……」

 僕はとてもつまらない答えを言った。

 直人は特に驚いた様子もなく「へぇ」とだけ言った。そして何事もなかったように同じスピードで歩を進める。

 その振る舞いというか、対応は、あの頃とはまるっきり違っていた。いわゆる「大人の対応」だった。

 でもそれは誰にでも当たり前に身につくものだろう。彼だけじゃない。

 ただ、僕があの頃から何も変わっていない、変われていないというだけの話で。

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