期待させておいて!
サタンのお仲間、登場
サタンと名乗る山羊角の男と対峙する。
「……」
緊迫した空気に、誰もが動かず、口を閉ざしている。
誰かが唾を飲む音が聞こえた。
「ねー、まだ?待ちくたびれたよ」
「いつまで遊んでいる」
膠着した状態を切り裂いたのは、場違いなほど明るい少年の声と、落ち着いた青年の声。
「……!」
素早く周囲に視線をめぐらすが、ネコ達の目には夜の闇が映るだけだ。
「ルシファー」
サタンが闇に向かって話しかけた。
「そこ」に何かがいるのだろう。一瞬、闇が揺らめいた。
「僕達の自己紹介、まだ?」
「待ちくたびれちゃったよ」
また、声がした。先ほどとは別の声だ。
穏やかなはずの声に、明るいはずの声に、三人は総毛立つ。
手のひらに汗がにじむ。
微動だにできない。
瞬きすら、できなかった。
「……ルシファー…」
サタンの放った言葉を、ネコが繰り返す。
心なしか、声が震えていた。
「…ふっ」
街灯の下。
唯一姿を視認することのできるサタンが、口角を上げて笑う姿が見えた。
そこにあるのは、絶対的優位。
「お前たちの命運もここまでだ!来い、我らが同胞よ!」
サタンが両の腕を広げた。
闇が揺らめく。
風が動いた。
サタンの両脇に、控える複数の影。
「…いつの間に」
呟いたのは、イヌ。
目を逸らしたつもりもなく、気を抜いたつもりもない。
けれど、サタンの脇にいる影の出現に気付くことができなかった。
「我が名は暴食のべルゼバブ!」
脇に控える一人が、羽織っていたマントを脱ぐ。
陰でよく見えないが、巨漢であろう、人の姿をしている。
「傲慢のルシファ」
ついでマントを脱ぎ、先に倣い名乗るのは、長身の男。
「…やっぱり、七つの大罪!?」
ネコが目を見開いて茫然と呟く。
「?」
「キリスト教における、人間を罪に導く可能性があるとみなされてきた欲望や感情のことを指すものよ。罪の源。悪魔と関連付けられていることもあるわ」(by ウィキペディア)
ラスボス一味としては不足なし、である。
「嫉妬のエンヴィ」
また一人マントを脱いだ。
「……?」
ネコが僅かに顔をしかめた。
さらに一人。
ゆっくりと身体を覆うマントを脱ぎ去る。
吹けば飛びそうな痩躯、こけた頬、くぼんだ眼窩。擦り切れ薄汚れた着物。
「わしゃ、貧窮の貧乏神」
「……」
「……」
「……キリスト教に日本の神様入ってんすか?」
「………いいえ」
地面に膝と手をつき、ネコは深いため息をついた。
「……期待させておいて!」
先ほどまでの恐怖はどこへやら、対峙するサタン達を睨みつけるネコ。
「恐怖のパンでーす!」
「黙らっしゃい!」
「ネコさん…」
むーん…。書きなおすやもしれませぬ。