サタンについての考察
「さて、と」
ウサギが街灯の下に立つサタンを見据える。
不遜な態度で三人を眺めるすサタン。
手には三又の槍を持ち、時折蝙蝠の羽根を羽ばたかせている。
「今までの奴らはほぼ伝承通りの能力を持っていたようだし。あいつも、『サタン』としての能力を持っているんだろう」
変身回数、三回。
対峙した化け物は計5匹。
いずれの化け物も伝承に出てくるような姿形に、伝承に沿った能力を持っていた。
半人半鳥のセイレーンは音を操り、見越し入道は体躯を肥大化させる。
「要注意ってことっすね」
イヌもウサギにならい、臨戦態勢を取った。
「でも、サタンって何の能力を持っているとかよくわかりませんよ」
「え?」
一応の臨戦態勢を取りつつも、戸惑った顔を見せるネコ。
宇摩志賀大学人類学部文化人類学専攻のネコは、彼らの知識担当でもある。
現に今までの敵の名前や特徴をいち早く暴き、戦闘を有利にしてきたのは彼女だ。
「どういうことっすか」
ネコの言葉に、イヌが続きを促す。
「色々いわれがありすぎて輪郭がぼやけてる感じがあって…。ルシファーと同一視してたり、別物としたり。あの恰好はザ・悪魔って感じなんだけど、『憤怒』と言ったからには七大悪の一角……であればあんな山羊じゃなくって…」
一人悶々と頭を抱え始めるネコ。
知識がある分、目の前にした「サタン」に対して思うところがあるようだ。
「内容がマニアックでよくわからないな」
「要は強そうってことで良いんじゃないっすか?」
ちらりとネコの様子を見た二人は、再び目の前に立つサタンに目を向ける。
攻撃をする素振りも見せないサタン。
三人には、余裕の表れに見えた。
「ネコさん、とりあえず強そうってことでオーケー?」
「……まぁ、そうでしょうね。眼鏡だけど」
不満げな顔をしたネコも、サタンを見据えて拳を握った。
「悪魔の親玉って説もあるし、七大悪と言うなら、それはそれで、他とは一線を画すでしょう」
ネコの周囲で、火の粉が舞う。
「生き残りたいなら、始めから全力で行くわよ」
「おう」
「っす」
敵から目をそらすことなく、二人がネコにこたえた。
ウサギは月刃を構え、イヌは氷の礫を創りだす。
戦う準備は、出来た。
「……いや俺、強くないんですけど」
街灯の下で冷や汗を流すサタンの声が、珍しく本気になった三人のヒーローに届くことはない。