能力の有効活用
「あれ」
ネコは台所で夕食を作っていた。
食材を切り、あとは炒めるだけの段になって、コンロに火がつかないことに気づいた。
「……」
一瞬考えるそぶりを見せると、コンロに手をかざす。
ふっ、と火がともる。
「便利よねー」
独り言を言って、料理を再開した。
◆
イヌは風呂に入ろうとしていた。
「あっつ!」
設定温度を間違えたのか、風呂の温度が少々暑すぎる。
うーん、と一つ唸る。
熱いお湯に手をかざす。
「……冷めろー」
小さく呟いて、適温になった風呂に心置きなく浸かったのだった。
◆
「なんか最近、変身しなくてもちょっとだけ力使えるんですよね」
「あ、俺もっす」
化け物を倒してから、三人はそんな話で盛り上がっていた。
「へぇ。それは知らなかったな」
やってみたことのないウサギは聞き役だ。
「おかげで料理できたし」
「風呂に入れたし」
「あ、お風呂沸かすのいいかも!光熱費うくなぁ」
「アイス溶けないのも地味にポイント高いんすよ」
本当に、地味だ。
地味なことにしかその能力を活かしていない。
話を聞いていたウサギは一つ苦笑した。
「クラウドが嘆きそうだな」
天界ではクラウドがさぞ悲しんでいるだろう。ヒーローの力で行うことが、まさか家事であるとは思いたくないはずだ。
そこでふと、自分の能力に思い至った。
「……」
地を操る能力。重力を操る能力。それがウサギに授けられた力。だが。
「家事に応用できない気がする……!」
そう考えると、なんだか一人だけ損した気分になった。
「そんなことないと思いますよー」
「日常生活に使うチャンスがありますよ」
「たとえば?」
「……高く飛ぶ?」
「ダメだろ」
年長者は一人、溜息をついたのだった。
おまけ。
「あー、それ俺が持っていくよ」
いかにも重そうな段ボールを持とうとしている同僚に声をかける。女性には幾分か重たすぎるものだろう。
「え、でも……」
「大丈夫大丈夫」
そう言ってひょい、と段ボールを持ち上げた。
能力を使って、この段ボールの重さを軽くしてある。段ボールにかかる重力を調整したのだ。
「えー、力持ちだったんですね!」
「いや、そんなことはないけどねー」
……確かに、これは便利だゾ。




