ラスボス、登場!
早くもラスボス登場
「畢方!」
ネコが叫ぶと、複数の火の玉が敵を襲う。
「月刃」
ウサギが手のひらに力を込めると、三日月状の刃物が現れた。
火の玉から逃れようと退く化け物に、横合いから切り付ける。
「おらぁっ!」
傷を負った化け物はイヌの渾身の一撃で霧散した。
「なんか、ようやくこの力にも慣れてきたっすね」
イヌが化け物の残滓を目で追いながら二人に話しかける。
「変身三回目でこれは上等、かな」
「そりゃそうっすよ。ネコさんなんか、火の扱いが全然違うじゃないっすか」
前回、ネコはその力でもって大火災を引き起こしそうになったのだ。
「ウサギさんも、刃物の扱いマシになりましたね」
月刃を出したとたんに自らを傷つけたことは記憶に新しい。
「そう言えば、ネコの言ってた『ヒッポウ』ってなんだ?」
「あぁ、能力のコントロールにはイメージが大事って聞いてね、火に由来する妖怪の名前を付けてみたの。――鬼火」
そう言ってネコが手をかざすと、球体の焔がゆらゆらと舞った。
「おれも何か付けようかな」
イヌはまだ氷の扱いに慣れておらず、今回も使用を控えていた。
「さて、用もすんだし帰りましょうか」
ネコが帰ろうと、踵を返したその時だった。
「お前たちが神の使徒か」
声が響いた。
「…何かいる?」
三人が周囲を見渡す。
「ここだ!」
頭上からの声に、三人は空を見上げる。街灯の上に、影が見えた。
「……あれは…」
遠目に映るその姿に、ネコが声を震わせた。
山羊の角、尖った耳、蝙蝠の羽、長い尾。
「悪魔…」
威圧感が、今までの化け物とまるで違う。
そもそも、人の言葉を操るものなどいなかった。
街灯から、影が降り立つ。
蝙蝠の羽を羽ばたかせ、三人の前に立つ姿はまがまがしくも神々しく、その眼光はガラスを隔てなお鋭さを…
「……って眼鏡!?」
震わせていた声を裏返し、ネコが叫ぶ。
「え、突っ込むとこソコ!?」
イヌが思わずネコを見る。
「悪魔でしょ!?なんで現代の利器を使ってんのよ!」
先ほどまで圧倒されていたのが嘘のように、ネコがくってかかる。
「近視なんだよ!」
「や、だから…」
そこじゃないって、と呟くイヌの言葉は、二人には届かない。
「ふ、余裕をかましていられるのも今のうちだ!俺は今までのザコとは訳が違う!」
いささかペースを崩された様子の悪魔は、息を整え胸を反らし叫ぶ。
「…今までのって言ったって」
「今日でやっと三匹だし」
「比べようがないんだが」
三人のささやかな主張も、悪魔の耳には入らない。
「我が名はサタン!憤怒を司りし闇の化身!」
悪魔は言いきると、三人を見据える。
「……サタン」
「俺でも聞いたことがある名前だな」
「ゲームで言う、いわゆる」
ラスボスって奴じゃ、無いですか。
「ちょっ…変身三回目にしてラスボスって早すぎない!?」
焦ったようにネコが二人を見る。
イヌもウサギも、顔が強張っている。
「え…ふつーラスボスって最後だろ」
「……終わった」
彼らは割と余裕だとおもいます(態度が)