待つ人/連絡手段
お久しぶりです。
文明の利器大事。
「困ったわね……」
ゼミ棟の掲示板を前に、ネコはひとり呟いた。
「おい、校門の前に学生?の女が立ってるぜ」
「結構可愛い感じらしいじゃん」
イヌの通う亜布高校の昼は、校門に立つ女の事でもちきりだった。
早々と昼食を食べ終え、眠る態勢に入っていたイヌは、なんとなく、その話題を聞いていた。
「髪長くて、華奢な感じだって」
そんな女一人で、良くこんな不良高に来たものだ。よほどの用があるのか、よほどの阿呆か……。
「でもさ、声かけた連中が言うには」
好奇心で声をかけたやつがいたのだろう。その女とやらも不憫なことだ、とイヌは眠りのふちに居ながらもつらつらと考えていた。
「人一人くらい殺してそうな目で睨まれたって言ってたぜ」
「それで戻ってきたのかよ、だせー」
ははは、と笑い声の起こる教室で、イヌの顔は一気に青ざめた。
椅子を倒す勢いで立ち上がるとそのまま窓に向かう。
周囲は沈黙し、イヌの一挙手一投足を注視した。
イヌは窓を開け放ち、窓の桟に足をかける。
「ちょ、ここ三階…!」
誰かの声は、途中で途切れた。
躊躇する様子などみじんもなく、イヌはそのまま、窓から身を躍らせた。
「……スゲー」
危なげなく着地したイヌは、走って校門に向かう。
「ネ…久城さん!」
校門の女に声をかけると、うつむいていたその女が顔を上げた。
イヌの予想通り、ネコが、不機嫌な顔で立っている。
「遅い!」
イヌの姿を目に止めた瞬間、ネコが不機嫌な声でそう言った。
「すみません!」
反射的に謝ったものの、何が悪いかよくわからない。ただ、彼女が長い間ここで待っていたのは事実だ。ただ、なんの約束もしていない。化け物退治も今日のところはまだないはずだ。
「ガラ悪い奴らには声かけられるし、駅から遠いし、寒いし…」
口を尖らせるネコにはいろいろと不満があるようだが…。
「でも、なんでここに来たんですか?」
問題はそこである。
「……来週一週間、ゼミのフィールドワークで県外にいるから。化け物退治参加できないって、伝えに来たの」
「なんで学校まで」
「家なんて知らなかったし」
確かに家は教えていないが。
「……私達電話番号すら交換してなかったのよね…」
「あ…」
その言葉で、合点が言った。
いつも化け物がいる場所が集合場所になっていた。プライベートで会う機会などない。
だから、今までそんなもの、必要だと思ったことも無かったのだ。
「……結構長い付き合いですよね」
「…そうね。まあ、ウサギさんにあったら、そういうことで、よろしく」
「はいっす」
「じゃ、厄介者が来る前に行くわ」
遠くに聞こえるエンヴィの駆けてくる音に、ネコは踵を返す。
なんとなく見送るイヌは、これから校内でどんな噂が立つのかと、少し気がめいった。主に今近づいてくる養護教諭の嫉妬が面倒だ。
「……ねえ、イヌ」
三歩歩いてネコが振り返る。
「帰り道、どっち?」
「……左っすよ」
たまにサタンが伝達役でパシられることも…?




