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鳥のヒーロー

 空を飛びまわる敵に、三人は苦戦していた。


「空を飛べれば…」


 ネコもイヌも、敵の場所まで跳躍は出来ない。

 ウサギの跳躍で高さを補うことができたとしても、空中戦はすこぶる不利だ。

 敵は三人の能力を把握しているのか、地上に近づこうともしない。

 空からの攻撃に対し、三人は防戦を強いられてきた。


「あぁ、もう!タイムセールス始まるのに!」

「今日は諦めるんだな。俺も残業決定だ」

「……ねみぃ」


 否応なく強いられる長期戦に、思わず愚痴がこぼれた。


「はっはっはっはっはっ!」


 突然、周囲に響く笑い声。


「サタンか?」

「それにしては笑い方がちょっと違うような…」

「あ、あそこだ!」


 イヌの指さす先には、二階建てビルの屋上。


「緑の…」

「ジャージ?」


そこにはまたダサさ全開の緑のジャージを着た…


「手こずっているな、同胞よ。だが私が来たからにはもう安心だ。何を隠そう、私は4人目のヒーローだ!」


 自称ヒーローが立っていた。


「…聞いて無いわよ」

 

 クラウドからは何も聞かされていない。


「俺も。っていうか、やけにやる気のある奴来たな」


 三人とは違う、珍しく正当なヒーローのようだ。

 

「良いじゃないすか。任せれば」


 よっこらしょ、と近くのブロックに腰掛ける。他の二人も並んで座った。三人とも新しいヒーローの見学に回る。


「俺の名前は…久篠つ…」


 男が名乗りを上げる。


「まさか!」

「また名簿か!」

「同じ名前!?」


 三人の脳裏に嫌な思い出がよみがえる。

 また。また「クジョウ ツカサが増えるのだろうか。


「ばさだ!」


 残りの二文字に、三人は心底ほっとした。


「良かった…」

「これ以上増えたら、どうしようかと…」

「ていうか、また名簿だよな、絶対」


 クラウドが名簿を見て適当な人間を見繕っているのが目に浮かぶ。


「ネコ・イヌ・ウサギ…あの緑は何の動物なのかしらね」

「さぁ…」


 彼はフードを被っていない。

 そのため、彼がどの動物をベースとしたのかわからないのだ。


「ふっふっふ。私の能力は、トリだ!」


 緑ジャージの男が両腕を広げる。

 と同時に、その手が翼へと変化した。


「おぉー」

「飛べるってこと?」

「俺、ちょっとヤな予感…」


 興味津々にその姿を見ようとする若者二人に対し、ウサギは苦笑いを浮かべる。


「とう!」


 掛け声とともに、男が飛び


「おぉおぉぉぉぉっ!」


 落ちた。

 砂埃が舞う。


「やっぱり。あれだけの翼では人は飛べないんだ」


 ため息交じりにウサギが言う。


「いってぇっ!」


 緑ジャージの男が地面を転げまわる。痛いだけで済んで何よりである。


「ちょっと待って」

 

 目ざとく何かを見つけたネコが、男を止める。

 そのままフードを、男に被せた。


「……」

「……これは」

「あのバ神!」



フードに耳は無かった。

代わりに赤い、立派な鶏冠が付けられていたのだ。


「ニワトリ寄越してんじゃないわよ!」


 この怒りをどこに向ければいいのか。クラウドにか。


「飛べない鳥は…」

「それは豚だ。飛ばない豚は、だ。」

「いってぇ…」


 未だ屋上から落ちた痛みに悶えるクジョウツバサとやらに、ネコの一言が刺さる。

 飛べない、鳥は…


「……役立たず!」


 未だ敵は、空を自由に飛んでいた。

これ以降出てくることはないと思います。トリ。

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