待望の「敵」
ネコ、イヌ、ウサギは、一匹の敵と対峙していた。
その豊かな毛並みは稲穂を思わせる黄金色。
憂いを帯びた面差しは、月花も霞むほど。
立ち居振る舞いは雅やかで、口を開けば凛とした鈴のような声が言の葉を紡ぐ…――
「我は玉藻」
九つの尾を持ち、狐の耳を生やした絶世の美女は、自らをそう名乗った。
「……白面金毛九尾…玉藻御前」
ネコが呟いた。
その声は僅かに震えている。
「こんなまともに、玉藻御前に会えるなんて…。サタンがアレだったから期待するだけ無駄だと思ってたんだけど…」
目を潤ませ、上空の玉藻を見るネコは、憧れの芸能人にでも会ったような反応だ。人類学部の彼女は、妖怪の類がどうも好きらしい。
「九尾の狐ってやつすね。ナ●トの」
「ぬ~●~の玉藻か」
男二人がそれぞれ知ったキャラクターの名を挙げる。
「台無し…っていうか、世代を感じますね…」
二人の言葉にネコが溜息をつく。
だがしかし、二人の言うことも間違いではない。
「しっかし、すごい美人だな」
「当り前よ!傾国の美女とも言われるあの、九尾よ!?」
「いや、どの九尾かわからんが…」
詳しくはないのだ。
「漫画で言うところの最強キャラっすよね」
所詮はその程度の認識である。
「サタンとは違って、見た目も完璧」
ネコは目を輝かせている。
眼鏡という残念な付属物はついていない。
「まさに『ラスボス』って感じ!」
「確かに」
「まともな敵!」
三人そろって、玉藻を見上げる。
「そ…そんなきらきらとした目で妾を見るでない…っ!」
予想外の反応に、玉藻は動揺を隠せない。
「もう、何て言うかありがとう!」
「まともな敵バンザイ」
「末永く元気でいろよ」
最後に至っては敵への反応ですらない。
「……あ……えと…」
三人の謎のテンションに、玉藻は戸惑うことしかできなかった。




