たとえば君が
傍らには見慣れた仲間が倒れいてる。どちらも動かない。
破壊された建物。
泣き叫ぶ子どもの声。
化け物はその中で悠然と立っていた。
一人対峙するネコも傷だらけで、満身創痍だ。
敵のはなつ攻撃を間一髪でよけるも、その風圧で吹き飛ばされてしまう。
地面に倒れ伏し、それでも彼女は言葉を紡ぐ。
「火…車」
その声に呼応するように、炎に勢いはなく、まさに風前の灯といった具合だ。
当然、化け物に何の傷を負わすこともできない。
「イヌ…」
仲間はその声に反応を示さない。
「…ウサギさん」
もはや生きているのか死んでいるのか、それすら定かではない。
動かない彼らに、自分の未来を重ねる。
敵が動いた。
すでに避ける力も残ってはいない。
避けようのない未来に、ネコは自らの終わりを悟り、小さく笑って目を閉じた。
――ついで、訪れる衝撃。
否。訪れるはずの衝撃は、いつまでも来なかった。
ネコはうっすらと目を開ける。
そこには――
「大丈夫?ネコさん。遅れてごめんね。と言って現れる僕の姿まで想像した」
「たくましい妄想だな」
エンヴィの長い妄想話につき合わされたサタンはうんざりとした声を漏らす。
「そこから敵を瞬殺」
「まぁ、お前なら可能だろうな」
「そしてネコさんの介抱だよね」
「……お前の中で他の二人はどうなってるんだ?」
「…死んだかな」
「……」
ぶれないのである。彼は。
「しかしまぁ……」
視線を戻してサタンが呟く。
そこには敵と対峙するジャージの三人の姿があった。
「現実とは大違いだ」
なかなか手ごわそうな敵だった。助太刀が必要かとサタンとエンヴィが来てみたが、なんということはない。
敵を相手に常に優勢だ。
特に。
「イヌ!いったん下がって!ウサギさんと私で行く!ウサギさん援護を」
「はいっす」
「おう」
ひるむことなく真っ先に敵に突っ込んでいくネコ。
その姿は勇猛果敢。活力に満ち溢れている。
先ほどのエンヴィの妄想とはかけ離れた姿だ。
そのたくましさはゴキブリ…いや、並の物ではない。
たとえどんなに不利になろうと、彼女は、彼女たちは最後まで諦めを知らないのだろう。あがき続けるのだろう。
笑って、はいさようならなんて、ありえない。
「畢方!」
ウサギの力で身動きの取れなくなった敵に、ネコが止めを刺す。
霧散した敵に、彼らはハイタッチでお互いの無事を喜び合う。
そのハイタッチですらやる気が見られないのは、また彼ららしいことである。
「ところでさぁ、サタン」
「なんだ」
「僕らの出番、ないね」
「ないな」




