表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/76

正義の味方?

 キャンパスで見なれた姿を見つけたサタンは、その背中に声をかけた。


「ネコ」

「この姿のときはネコって言わないで。喋らないで。関わらないで」

「……」

「で、なんの用?えっと…八木?」


 声をかけただけで10のダメージが返ってくる。

 特に用事もなかっただけに、サタンは話しかけたことを後悔した。

 なんとなく二人で歩いていると、かすかな悲鳴が聞こえた。


「なんだ?」


 目を向けると、大型テレビの前に人だかりができていた。

 ラウンジのような場所に設置されたそのテレビは、緊急速報を流しているようだ。

『――、バスが…転落――、取り残された…の安否が…』

「この付近でバスが川に転落したようだな」

「へぇ」

 

 途切れ途切れの音を拾う。

 対して興味がなさそうに、ネコが相槌を打った。


「浸水が早いな。このままだと、救助は間に合わないぞ」

「よく見えるわね」


 二人からテレビまでは遠く、ネコにはよく見えないし、聞こえない。


「私を誰だと思っている」


 ネコの言葉に、サタンが口角をあげて笑う。


「…ヘタレ?人間姿もいまいちあか抜けないわよね」


 邪気なく言われたその言葉に、サタンはガックリと肩を落とした。



「救助はまだでしょうか!バスの上に立つ乗客たちの足元に、水が迫っています!」


 アナウンサーは、川を背に叫ぶ。

 野次馬たちも集まり、一帯は喧騒に包まれていた。


「なんだ!?」


 アナウンサーのそばで、声が上がった。


「ネコだ!」


 現れたのは、日々化け物と戦い、街の平和を守っているネコだ。

 相変わらずのダサい小豆色のジャージである。

 そしてその隣には、


「隣のやつは何だ?」

「眼鏡かけてるぞ」

「スーツだ。サラリーマンか?」

「いや、蝙蝠みたいな羽が生えてる。コスプレか?」


 サタンが立っていた。


「バスに乗ったぞ!」


 声につられて、アナウンサーが川を見る。

 二人が軽やかにバスに飛び移った。


「えー、今ネコと…隣のスーツは、誰でしょうか…?」


 黒いスーツに、角と耳と尾、そして蝙蝠のような羽を生やした青年。人間のような、だが化け物に近いものにも思える。

 

 バスに降り立ったネコは、不機嫌そうに顔をしかめていた。

 目の前には助けを期待する人々。

 隣には使命感を帯びたサタン。


「さぁ、ネコ。人命救助だ」

「……」


 さぁ、と言われたところで、ネコは乗り気ではなかった。

 お前はヒーローだろう、とサタンに引っ張られてきただけなのだ。

 ダメンジャーは化け物を退治する使命はあるが、人命救助は仕事のうちに入っていない。助けたところで時給も発生しない。

 それにもうすぐ、必修科目の講義があった。

 いち早く大学に戻りたいのが、彼女の本音である。


「……今日の差し入れは合びき肉と卵と玉ねぎだ」


 いつもより、少し豪華な差し入れ内容をサタンが提示する。確かパン粉の余りがあったはずだ。ハンバーグが作れる。

 一瞬の逡巡の後、ネコはやる気のない目をサタンに向けた。


「………お菓子もつけて」

「…分かった。」


サタンからの言葉を聞くと、ネコは一人に手を差し伸べた。



『ネコと謎の男の活躍により、バスの乗客は全員無事に助けられました。なお、この転落事故による死者はおらず…』


 夜、テレビをつけると、バスの転落事故の放送が流れていた。

 チャンネルを変えても、どの局も同じものを流している。


『ダメンジャー、ネコ。そして謎の男…――。はたしてその正体やいかに』


 話題はバス事故の原因ではなく、もっぱら助けた二人のヒーローことが放送されている。

 動物学者曰く、「あれはヤギの角」だとか、「羽や尻尾はコスプレなのか」だとか、どうでもいいことが延々議論されている。


「君さ、ばっかじゃないの?」


 テレビを見たエンヴィが、心底馬鹿にした顔で言った。


「まぁ、確かに」


 エンヴィの言葉に頷いたのはルシファだ。

 ルシファの隣でパンも笑う。


「一応悪役で人間の敵が、人命救助なんて笑っちゃうよねー」

「………すみません」


 人助け、と言う非常に尊いことをしたサタンは、仲間に罵られ、小さくなった。


「困ってるやつを放っておけないタイプなんじゃな」


 様子を見ていた貧乏神が、朗らかに笑った。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ