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アニソンじゃん!

「……キレーだが、下半身が残念だな」

「鳥っすからね」


 三人の前に現れたのは、半人半鳥の美女だ。

 電信柱の上に立ち、優雅に微笑みかけてくる。


「ゲームで似たようなの見たことあります。たしか…セイレーンって言ってたかな」


 イヌが言う。


「あー、たぶんそうですね」


 敵を見上げて、ネコもその正体を断じる。


「俺、あぁいう手合いはトラウマなんだ」


 ウサギはセイレーンから目をそらす。

 始めて化け物と対峙した時、彼は似たような有翼人に殺されかけている。


「海に出る生き物って言われてますけど…陸にも出るんですね」

「…まぁ、目の前にいますから。で、どうすれば?」


 どこか感心したような声でネコが言う。

 イヌがセイレーンを見上げて尋ねた。一にも二にも、大切なのはソレだ。


「歌声によって船員を惑わし船を難破させる…って言われてるんで、歌声注意、で」

「倒し方は?」

「んー…確か、歌の上手い船員が対抗して歌ったら、ショックを受けて入水したって話が…あったような、無かったような…琴だっけ?」

「歌…ねぇ」


 暗に、誰か歌えと言われているようだ。


「……誰がっすか?」

「…………出来れば、パスしたいな」

「私も…」


 誰が歌うかを決めかねていると、頭上のセイレーンが薄紅の唇を開いた。


「耳を塞いで!」


 ネコが叫ぶ。

 が、一瞬早く、セイレーンの紡ぐメロディが三人の耳に届く。


「天使だ戦士だゴゴーゴ~♪」


 耳に届くのは軽快なメロディ。


「……」

「……」



 三人は無言で耳から手を離した。


「……天使戦士ララエル」

 

 日曜朝に放送されている、子どもや一部の大人に大人気のアニメの主題歌だ。

 CMなどでも盛んに流れるその歌を、知らぬものは日本にはいないだろう。


「ある意味大ダメージだ」


 ウサギが溜息を一つ吐く。


「セイレーンの歌が…」

「……なんすか、これ」


 がっくりとうなだれるネコは、またイメージを壊されたのだろうか。

 サブカルチャーに疎いイヌは、聞き覚えのあるメロディーに、首を傾げる。


「……これに対抗する歌…」


 未だ頭上で歌い続けるセイレーンに、三人は対策を考える。


「アニソンがいいんすか?俺あんま知らないっす」

「私も…古いものしか…」

「よし、わかった」


 困り顔の二人の横で、ウサギが思いつめた顔で、セイレーンを仰ぎ見た。


「俺がやる」


 薄く唇を開き、息を吸う。

 深みのある低音が、寸分たがわず音程を拾っていく。

 感情を込めて歌われるそれは、思わず涙がにじむほどだ。


「すっげー歌うまい」


 けれど歌われているのは、土曜の夕方に放送されている魔法少女ものだ。


「他の歌歌えばいいのに。男っぽいやつ」

 

 そういいながらネコは、胸に星座の傷を持つ、世紀末のアニメを思い出していた。


 見上げた電柱の先。

 ウサギとののど自慢対決に負けたと判断したらしいセイレーンが、力無く落下するのが見えた。


センス無くてすみません…

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