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攻防

暴走、の続き的な。

 エンヴィは、度重なるストーカー行為によって、ネコの予定を完璧に把握していた。

 曜日毎の起床時間。

 アパートを出る時間。

 その日受ける講義。

 サークル活動。

 それだけではない。

 昼食を誰とどこで、いつ食べるか。

 数日内に文具店に寄るだろうことも把握している。

 そして当然、帰宅時間、就寝時間も把握している。

 エンヴィは呟いた。


「そう、だから子猫さんの予定は把握済み。あとはソレに合わせて行動すれば」


 攫って監禁など、たやすい。

 一人きりの時も、無防備な時もわかるのだから。

 たやすい、はずだった。

 今、この瞬間。

 おそらく尚は一人きりで、人気のない道を通っているころ合いだ。

 エンヴィにとって、またとないチャンス。

 しかし、エンヴィは歯噛みして時計を見ているしかすべがなかった。


「蛇塚先生、飲んでます―?」

「あ、はい」

「ささ、先生。グイーっと」

「はぁ…」


 なみなみと注がれた酒に、エンヴィは眉をしかめた。

 亜布高校の教員の飲み会。

 エンヴィはその飲み会の席にいた。

 教員全員参加という驚異的な出席率に、「養護教論の蛇塚」は参加せざるを得なかったのだ。

 そのせいでエンヴィはネコを拐すチャンスを棒に振る羽目になった。


「………はぁ」


 無防備な就寝中は、部屋の外の警戒が厳しい。

 尚を「嬢」と呼び慕う同じアパートの住人の活動時間であり、これがなかなかに厄介なのだ。

 音に敏く、騒がしい。そのため、音を立てればすぐに人が集まってくる。

 近所のやの付く自由業まで集まるのはいただけない。

 あくまで隠密に、と考えるエンヴィは、早々に夜のアパートへの侵入を諦めていた。

 では、朝はというと、エンヴィが学校へ行かなければならないのだ。

 昼も夕方も、エンヴィは学校の業務があり、拉致監禁を実行できない。

 注がれた酒をあおる。

 教頭の残り少ない頭髪をむしり取ってやりたい気分になった。


「……誤算だった」


 怒り以上に、呆れが勝る。


「…俺に自由な時間が無かったなんて」


ここで言う攻防は、エンヴィとネコというより、エンヴィと時間、といったところでしょうか。

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