オシゴトしましょ
普段の彼らはこんなもの…
ネコの場合
昼時の学生食堂は混んでいる。
あちらこちらに人があふれ、人の声はうるさいほどだ。
「毎日偉いねー」
目の前に座る未子が、感心したように言った。
「お金ないからね」
学食の日替わりAランチとBランチ、パスタの乗った机に、尚は弁当箱を置いた。弁当以外はすべて目の前の未子のものだ。
「で、その先輩が…」
「うん」
未子の話に適当に相槌を打ちながら、弁当を食べる。
ふと、足元が揺れた。
「やだ、地震?」
友人が不安げな顔を見せる。地響きを伴う断続的な揺れに、半ば確信を持って外を見た。
「……最近多いよねー」
化け物が。
窓の外。遠くに揺れの原因をみとめて溜息をついた。もちろん地震などではない。
巨大な巨大な入道の姿。
「ま、すぐに収まるでしょ」
あの方角はイヌの通う高校の方だ。ウサギの良く行くという営業先の病院も近い。
かすかに揺れ続ける足元をよそに、尚はのんびりとお茶をすすった。
ま、どっちかがやってくれるでしょ。
イヌの場合
「ん?」
屋上で昼寝をしていた僚は、かすかな揺れを感じて目を覚ました。
下で女生徒の悲鳴も聞こえる。
「……」
すこぶる嫌な予感がする。
フェンス越しに外を見ると、大きな坊主がいた。
この学校より少し高い背。その高さに見合う横幅。
「…大きくなってってるな」
遠目からでも、その化け物が巨大化して行くのがわかる。
「どうしたんっすか、クジョウさん!」
一緒にさぼっていた名も知らないさぼり仲間が、フェンスの方を向いたまま動かない僚の名を呼ぶ。
「……」
「な…なんすか、アレ!」
答えようと口を開くより早く、視線の先を追ったさぼり仲間が声をあげた。
「……さぁ」
「あ、アレっすかね!見越し入道。昔絵本で読んだんすけど」
「……さぁ」
化け物がどんな種類のものかなど興味はない。
倒してしまえば塵になって、消える。
「あれ、クジョウさん?」
「寝る」
再び床に寝そべり、瞼を閉じる。
多少の揺れもあるが、気にはならない。
あちらの方角にはネコさんの大学があるはずだ。
やわらかな日差しの中、僚が寝息を立て始めるのに時間はかからなかった。
どっちかやってくれんだろ。主にネコさんが…
ウサギの場合
「この製品はですね…」
昼時とはいえ、宰は営業の真っ最中だった。
ズン、と腹に響くような振動。
「地震…?」
「最近、やたら多いですね。地震や火事や…」
「…そうですね」
その地震や火事、――さらには季節外れの猛吹雪や大洪水なんかにも――自分が関わっている、などと口が裂けても言えるわけがない。
「お…温暖化のせいですかね」
相手に向けた笑顔が、ひきつっていないことを祈るばかりだ。
あの二人、もう少し考えて戦ってくれないかな…
「ちょ…誰か働けよ!特にネコとイヌーっ!」
天界から眺めていたクラウドの叫びは、誰に届くこともなく。
ネコとイヌはさぼりですが、ウサギは化け物に気付きすらしません。それでも何とか平和は保たれています。…多分。