理由
「っていうかさあ」
生協の食堂でサタンと鉢合わせたネコは、なぜかそのままサタンと昼食をとっていた。
ネコは持ち込み弁当、サタンは生協自慢「本日のパスタ」を食べている。
「なんだ、ネコ」
「ここでその名を呼ぶな。久城尚よ」
「そういえばそんな名前だったな」
ジャージー戦隊ダメンジャーは、漢字は違えど、みな一様に「クジョウ ツカサ」という名の持ち主だ。
「そうよ。えぇっと…ヤギ?」
「八木沙汰な」
「安直なネーミング」
そう言い捨てて、ネコは弁当の中身をつまむ。サタンの差し入れと、クラウドの支払う給料のおかげか。以前より豪華な弁当になってる。
「そうそう。あんた達のことなんだけど」
「なんだ?」
「結局何がしたいわけ?」
ド直球、という言葉がこれほど似合う質問もなかった。
「何が、と言うと?」
質問が何を指しているのか、サタンは判断しかねた。心当たりがありすぎる。
「いろいろ。最近はないけど、差し向けてくる化け物どものこととか、こうして人間に混じって生活してることとか」
脈絡が掴めないのよね、とネコが言う。
「思えば初めから私たちを殺そうって気がなかったわよね。初めのころなら…いえ、今も、私たちはあんた達に勝てない。その気になれば一瞬でしょ」
「……あいつらならな」
「あんたもよ」
「……」
普段情けない姿をさらし続けるサタンも、彼らを率いるだけの実力があることはネコも、ほかの二人もわかっていた。ただ、性格があまりにへたれているだけで。
そう。ネコたちはわざと、見逃されているのだ。
その理由が、わからない。
それがひどく気持ち悪かった。
「あんたたちが化け物の親玉なのかと思ってたけど、あんたたちのことを襲う化け物もいるし。意思疎通が可能なあんた達と、強暴なだけの化け物。私が初めて見たミノタウロスは、一応人語を喋っていたけれど…疎通はどうだったのかしらね」
疎通のできない化け物の方が圧倒的に多かった。というより、彼ら7人以外、ほとんど見かけない。もはや別種だ。
「クラウドは倒せ倒せというだけだし」
そう、だからネコたちは化け物のことはよく知らない。向かってくるから倒す。それだけだった。
「そうこうしてるうちに、平和に人間に混じって生活しだすし」
そして、配下から敵を差し向けることはなくなった。
最近の敵は、彼らの管轄を外れている化け物のように思えた。
「ほんと、なんなわけ」




