イヌの戦い
「そういえばねー」
昼休み。パンがイチゴ牛乳を飲みながら、イヌに話しかけてきた。
亜布高の屋上でのことだ。パンはたまに、イヌと共に昼食を食べる。
パンが自分の母の手作り弁当のおかずをひそかに狙っていることを、イヌは知っていた。
「エンヴィ今日すごい上機嫌でー、何があったのって聞いたら…」
「…既にオチが見えてきた」
どうせ新たに盗聴器仕掛けたとか、ネコさんの私物を取ってきたとか、そんな程度のことだ。
……結構重大だが。
麻痺した思考に、自らツッコミを入れる。
「婚姻届にネコちゃんの名前が…」
「何してんだっ!あの蛇男ぉっ!」
オチが半端ねぇ!
次いでパンの口から語られた言葉に、イヌは屋上を飛び出した。
「エンヴィ!」
「あれ、また来たの?」
保健室に怒鳴りこんできた僚に、呑気に応えるエンヴィ。
保健室では静かにねー、などと、養護教諭らしいことを言っている。
「婚姻届、出せ!」
「なんのこと?」
エンヴィが首を傾げた。わざとらしいその態度に、イヌはパンの言葉が真実だと確信した。
「とぼけんな!ネコさんとのやつだよ!」
「ちっ、パンか。――知らないよ」
「今舌打ちしただろ!おら、出せっ!」
「やだよ!」
鞄を抱きしめるエンヴィ。
そこに入っているのか、とイヌは鞄に手を伸ばす。
エンヴィが鞄を抱え上げて、イヌと距離をとろうとする。
すぐさま距離を詰めるイヌ。
「出せ!」
「嫌だ」
「出せ!婚姻とどっ…」
「すいませーん。怪我しちゃって…」
ガラリ、と保健室の扉が開かれた。
「け…」
保健室に入ってきた生徒が見た光景は…
「カツアゲ?恐喝?え、痴情のもつれ?」
婚姻届を強い、鞄を奪おうとする、九条僚と、必死に抵抗をする蛇塚の姿。
「……どんなだよ、それ」
イヌはがっくりと肩を落とした。
ネコの身の安全はイヌにかかっています。




