死ねない理由
「君たちをこの天界に呼んだのは他でもない、この私だ!君たちはPandora Ⅱから出た闇を倒すべく選ばれた…」
突然、化け物が現れ。
突然、真っ白な世界に落とされ。
突然、RPGの世界から出てきたような白い衣装をまとった、脂ぎったハンプティ・ダンプティが現れ。
突然、ハンプティ・ダンプティに何事かを声高に語られ。
少女と少年、そして青年の三人は一瞬思考を停止させた。
「さぁ、共に闇と戦い、世界に平和を取り戻そうじゃないか!」
ハンプティ・ダンプティが拳を握りそう締めくくる。
いち早く我にかえり、最初に口を開いたのは少女だった。
「断る!」
次いで少年と青年も口を開く。
「右に同じ」
「左に同じ。めんどい」
「え…」
思いもかけない言葉に、ハンプティ・ダンプティ…もとい創世神クラウド・ゴッドは言葉を失った。
「そ、それは困る!あ、そうだ!断れば君たちは死ぬことになる!」
どうだ、困るだろう!とハンプティ・ダンプティが叫ぶ。
実際三人は死んだようなものなのだ。現世で化け物に襲われ、瀕死の状態のまま、クラウドが時を止めて命をつないでいる状態なのだ。
「ふん…確かに…」
少女が腕を組み考え込む。
(焼き肉おごってもらう約束してたしな。食べずに死ぬのも…)
「……」
少年が顔をしかめる。
(親より先に死ぬと地獄に落ちるって言うしな…)
「困るな、それは…」
青年も眉を寄せた。
(誰かにパソコン見られたら恥ずかしいし…履歴とか…)
「しょうがない」
青年が苦い顔でそういった。
「やるわ」
「あぁ」
次いで少女と少年もうなずいた。
「やった!」
クラウドはもろ手を上げて喜び…ここからダメンジャーが発足することになったのだった。
「どうしたんですか?ウサギさん」
どこか遠い目をしているウサギに、ネコが問いかけた。
「いや、ちょっと前のことを思い出してな」
危ない履歴はすでに消去した、己のパソコンを思い浮かべる。
今度は、いつ死んでも、恥をかくことはないだろう。
「焼肉は食べれたか?」
「数か月も前の話なら、答えはイエスですね。あ、今度先輩がケーキおごってくれるっていってましたー」
笑顔でそんなことを言うネコは、またこの世に未練ができたのだろうか。
ついでに人生の先輩として、その「ケーキをおごってくれる先輩」とやらが男の場合、下心に注意するように忠告したい。とても。
「イヌは…しばらくは未練たらたらか」
意外とかわいい思考のイヌは、親が死ぬまで自分は死ねないという孝行息子だ。
「いきなりどうしたんですか」
「いや、別に」
案外人は、くだらない理由で生きようとするのかもしれない。
あれ、なんだかシリアル…いや、シリアスな雰囲気に…こんなはずでは…




