影の戦い(イヌ編)
先におまけがちょろりと。短いです。
「ひぃっ」
「九条…」
「っす!九条さん!」
恐怖と力による支配、九条僚。
「かわいー」
「お菓子いる?」
「弟にしたい~」
可愛らしさによる懐柔、羊飼芽江。
より多くの生徒を従わせるのはどっち!?
「って賭けやってたんで、先輩に全財産賭けてきたっス!」
満面の笑みでそう報告した後輩に、言う言葉は一つだ。
「やめさせろ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
掲示してある時間割を見ると、次は体育のようだった。
「かったるー。やることないからって、外でドッジボールって小学生かって感じ」
「私結構好きだけど。ソレに…」
クラスの女子の会話が聞こえてくる。
男子は体育館で卓球だったはずだ。
男子でドッジなんてやった日には、救急車が出動する羽目になる。
ここはそういう学校だ。
「怪我したら、蛇塚センセーに手当てしてもらえるんだよ!」
その言葉に、イヌはかすかに表情を変える。蛇塚円。最近赴任してきた保険医である。そうつまり、エンヴィのことだ。
彼は容姿のせいか、外面のせいか、女子によくモテる。
「あ、ソレ良い!『気をつけなきゃだめだよ』とか言って、笑いかけてもらいたいー!」
「でっしょー!先生のことだから、絶対優しく…」
僚は無言で席を立った。
「あれ、九条サン。どこ行くんスか?」
「……保健室」
投げかけられた問いにそう答えて教室を出る。
「……っていうのは、また今度にしようか」
「うん、怪我しないように気をつけようね」
教室を出るときに、先ほどの女子が顔を青ざめさせているのが見えた。
「で、何しに来たの」
ベッドに腰掛けた僚に、エンヴィが首を傾げる。
「……昼寝」
「敵の前で?」
「……」
(変態のトコに、他のやつ行かせるわけにはいかねーだろ…)
とは心の中で思うものの、口には出せない。
「やだな。俺、子猫さん一筋だよ」
「心を読むな!」
朗らかに笑うエンヴィに、イヌは顔をひきつらせた。




