お前もか! (残りの人々のあれやこれや)
SSを三つ詰め込みました。
「今日は何食う?」
隣にルシファがいることにも慣れてきた、今日この頃。
昼休みに一緒に飯を食べるほどには打ち解けていた。
「…ラーメン」
「昨日も一昨日もラーメンだったよな」
というか、一週間ずっとラーメンだ。
体重計に乗るのがそろそろ怖くなってきた。
「好きなのか?」
「あぁ」
昼食を取りに外へと出てきたウサギとルシファ。
「まぁ、俺も好きだけど。ちなみに俺は塩派だ」
「豚骨」
「肉食獣だからか?」
元がライオンっぽいルシファだ。ウサギは安直に考えて口にする。
「肉は好きじゃない」
「肉食獣なのに?」
「肉より魚…」
くだらないことを言い合いつつ、ラーメン屋の暖簾をくぐる。
「へい、らっしゃい!」
「らっしゃい!」
訊き馴染んだ店主とは別の声に、厨房をのぞく。
最初に声を上げたのはルシファ。
「あ」
「げ」
しまった、と顔をしかめるギョロ目の男に、ウサギは思わずため息を漏らした。
「…べルゼバブ」
お前もか!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
珍しく朝のSHR前に学校に来たイヌ。
イヌの存在によっていつもより緊迫した雰囲気のクラス。
……やっぱりいじめじゃね?
と思いつつも、席を立つのもおっくうで、教室に居座り続けている。
無遠慮な視線が背中に刺さる。
「おはよう、皆。今日は転入生を紹介する」
チャイムと同時に入ってきた担任は、朗らかにそう言った。
初耳だ、と僚は思ったが、そもそもまともにSHRにもHRにも出てはいない。ほとんどのことが彼にとって初耳である。
「ねぇ、知ってた?」
「いや、初耳」
だがしかし、今回はからだけではないらしい。急に決まったことなのだろうか。
「いやー、急な転入でね、僕も昨日の職員会議で知ったんだけど…」
呑気に笑う担任。もしかしなくても押しつけられたのだろう。
「さぁ、入っておいで」
「はーい」
担任の呼びかけに、いやに元気な返事が返ってくる。
その声に、嫌な予感がした。
「はじめまして。羊飼芽江です」
そう言って、笑顔の大盤振る舞いをしているのは…、7人の敵の一人、パンだ。
……お前もか。
「……もう驚かない」
エンヴィが養護の先生だった。こういうことだって予想出来た、と思う。
「えーっと、お菓子が好きです。算数が嫌いです。マイブームは…」
「……だからって」
教壇に立って自己紹介をするパンを見る。
一番小さいブレザーでも大きかったのか、肩も袖も余っている。
成長期を迎えていない声は高く、身体は華奢だ。
何より言動が子供っぽい。
「無理があるだろうがぁっ!」
「ひぃっ」
近くの席のやつが悲鳴を上げたが、かまってはいられない。
「てっめぇ、なんでここにいんだよ!高校だぞ、高校!おまえは小学校にでも行ってガキと遊んでろ!」
「あ。駄目犬」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれ、今日は肉無し弁当だ」
「あぁ、解凍間に合わなくて」
「ふーん」
混みあう食堂で何とかテーブル席を確保して、弁当を広げた。
相変わらず未子の前には大量の料理が置かれている。
「……最近思ったんだけどさぁ」
「ん?」
「確かにその量が入る未子の胃袋もすごいんだけど、その量を一回で持ってこれる運動神経もすごいよね」
腕力やバランス感覚が…。
「まぁ、ウェイトレスのアルバイトしてますからねー」
ふふん、と自慢げに笑う未子。
「バイトかぁ…」
「最近入れてないって言ってたよね。っていうか、いまだにバイト先教えてくれないの?」
「まぁ、いいじゃない」
バイトのことは、ヒーロー業と合わせてトップシークレット扱いである。
恥ずかしくて到底言えそうにない。
「すみません」
不意に声をかけられた。
「その…相席させてもらっても良いですか?」
振り返ると、困り顔の眼鏡の男が立っている。
食堂の混むこの時間帯では日常茶飯事のことだ。
「………」
「いいですよ」
男を見たまま黙りこくったネコに代わって未子が応える。
「ありがとうございます。えっと、失礼しま……」
礼を言って、男が尚の隣に座ろうとして、固まった。
「…あんたもなのね」
ネコが横目で男――サタンを見る。
「……まぁな」
お前もか
「あれ、知り合い?」
「まぁ…」
「ちょっと」
「どういう関係?まさか、こ…」
「それは無い」
あらぬ方向へと未子の思考が行かぬように、と尚が早めに牽制する。
「この『人の』名前も知らないし」
「八木沙汰だ」
安直なネーミングに、ネコが脱力する。
「あぁっ!」
その隣で突然声を上げるサタン。
原因がわからず、思わずネコが尋ねた。
「どうしたの?」
サタンの視線は、なぜか尚の弁当に注がれていた。
「さた…」
「なんで肉が無いんだ!」
「は?」
突拍子もないサタンの言葉に、思わず間抜けな面を晒してしまったとて、誰が尚を責められようか。
「昨日トリ肉のパックを置いておいたはずだぞ!」
「あぁ、うっかり冷凍にしちゃって…」
「まさか、他の住人に取られたのか?!」
「だから、解凍出来なくて…」
「足りなかったとか…!」
「いや、だから…」
「だが、だからと言って、肉無しは駄目だ。力が出ない!」
「あぁ、うんごめん」
「量を増やすべきか?いや、それでも…」
「………」
止まらないサタンに、もはやネコも口をはさめない。
「ねぇ、その人、尚のお母さん?」
成り行きをずっと見ていた未子が、ネコにそっと耳打ちする。
「…私は女の人から生まれたはずだけどね」




