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良いやつ

三人目

「ってことがあるんで」


「気をつけて下さいね」


 朝日の昇る前。

 襲来して来た敵を寝起きの不機嫌さで瞬殺した三人は、缶コーヒーを片手に公園で喋っていた。


「保険医に教授か…どんなコネがあるんだろうな」

「…注目するとこソコなんすね」

「薄汚れた大人の視点…」


 社会に出ていない二人の無垢な視線にさらされ、ウサギは言葉に詰まる。


「えっ、だって大事だろ」

「…まぁ、そうなんですけど……」

「一応注意してみるが…学校と違って企業は数が多いからな」


 万に一つも会うことはないだろう。



 そう言って笑った自分を、ぶん殴ってやりたい。

 一度と言わず、100回くらいは。

 目の前で上司の隣に立つ男を見て、ウサギ――宰は盛大に自分を罵った。

 美丈夫、と言う言葉はこの男にこそ使うべき――そう思わせるような容姿をしている。

 褐色の肌にガタイのいい体躯。

 一見すると野性味あふれる、といった容姿だが、切れ長の瞳は知性をたたえ、引き結ばれた口唇も相まって理知的な印象を受ける。


「彼は中途採用の不和留史君だ」


 上司が男を紹介する。


「不和留史です。よろしくお願いします」


 低く落ち着きのある声。

 丁寧に下げられた頭。

 畜生。すべてが完璧だ。


「九條君、君には不破君の教育係をしてもらう」

「えっ!?」

「ってことで、よろしく頼んだぞ!じゃ!」

「あ、ちょ…」


 素早く歩き去る上司に、思わず舌打ちが漏れた。


「俺のところにはお前か、ルシファ」


 ため息交じりに宰が言う。

 宰の隣にはサタンの仲間の一人、ルシファが立っていた。


「あぁ」


 あっさりと認めるルシファは、耳もなく、金の髪も黒くなっている。


「……あ」


「なんだ?」


何かに気づいたように、ルシファが声を漏らした。


「えぇっと……至らぬ身ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

「……」

「ウサギ…お前のことはなんて呼べばいい?ウサギでは都合が悪いのだろう?」

「……お前って」


 なんていい奴なんだ!

 敵である自分の、都合まで考えてくれようとしている。

 できるならば、その気遣いをこの会社に入る前にしてほしかったが、それは置いておこう。


「挨拶も気遣いもできる…。おまけに容姿も良い。畜生、完敗だ…!」

「?」


 いきなりの敗北宣言に、ルシファは首を傾げるのだった。



おまけ


「だから、それじゃコストがかかりすぎる!」

「じゃあ半端なものを作らせろと言うのか!」

「そうじゃなくて、他に…」

「他って言っても、今更新しく……」


 騒がしいオフィスの中でも、ひときわ騒がしい一角。

 中心には宰とルシファがいた。

 互いに一歩も譲らず、見えぬ火花を散らしている。


「やってるねぇ」

「ですねぇ」

「一週間でもう10回目」

「元気ですねぇ」

彼の名前は早口で復唱すればいいと思います。

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