何してる!
夏休みも明け、後期の講義がちらほらと開かれ始めた。
ネコ――もとい尚と未子は、後ろの方の席に陣取る。
「先週休講だったから初めてだね、この先生」
未子が話しかける。
そういえば、と尚がこたえる。
「体調不良だっけ?」
「不慮の事故のためじゃなかった?」
「あぁ…後期早々ついて無い、って思ったわ」
「名前も不幸そうっていうか、貧乏そうな感じだしね」
「え、どんな?」
単位さえ取れればいいと、尚は教員の名さえ見てはいなかった。
「金梨頻坊」
未子はそういった。
思わず聞き返す。
「かねなしびんぼう?」
「かねなしひんぼう」
確かに、つけた側に悪意があったともとれる名前である。
「えー、みなさんお静かに」
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい。
痩躯の男が壇上に立っていた。
眼窩はくぼみ、話す声は皺がれている。スーツから覗く腕は枯れ枝のようだ。
着物でも着ていれば、そのままお化け屋敷にでも出そうな陰気さを醸し出している。
「後期、みなさんの講義を預かります。金梨頻坊です。よろしく」
「……」
「うわー、なんか…大丈夫かなぁ。講義中に倒れちゃいそうなんだけど。ねぇ…って、尚?」
――前、金梨頻坊という男を見たまま固まったように動かない尚。
「ちょっと…」
「……なんで、」
再度声をかけた未子を遮って、尚が呟く。
「なんでこんなとこにいんのよ!貧乏神!」
「ちょ…尚!?」
っていうか、
何してる!
突然教員にむかって暴言を吐く友人に、未子は焦る。
「あー、先生は確かに貧乏神っぽいけど、面と向かって言っちゃ駄目だろう」
言われた金梨――否、貧乏神は朗らかに笑う。
「さぁ、講義を始めるから、落ち着いて席に座りなさい」
教員らしく尚をたしなめる。周りの目にさらされ、尚は静かに腰を下ろした。
「……気付いてないの?いや、気付いていてのあの態度…?」
「尚…怖いよ」
未子の声も耳に入らない。思わず爪を噛んで、考え込んでしまう。
納得が、いかない。
ここに貧乏神が来たことも、その目的も、考えてもわからない。
ネコを倒すならば、存在を公の場にさらす必要はないのだ。
学生生活中のネコなど、隙だらけのはずだ。密かに入り込んで倒してしまえばいい。
それを、教員になってまでこの大学に来た意味。
いくら考えても、納得のいく答えは出なかった。
おまけ
「えー、であるからして、福の神というものは…」
「……」
「さっきから、ものすごい顔してるけど…」
「……」
未子がノートを取りながら、隣の尚へ話しかける。尚はノートもとらず、じっと貧乏神をにらみつける。
「金梨先生、結構良い人じゃん」
「ってわけで、まぁ…貧乏神の私とは、天敵ってわけだ」
「尚の言ったこと、怒るどころかネタにしてるし」
というか、それは真実だ。
「講義面白いし」
「だからよ」
「へ?」
貧乏神のくせに講義が面白いなんて
納得いかない!
「……え、理不尽…」
暇つぶしだと思います。
サタンの仲間の貧乏神、覚えているでしょうか…




