後悔先に立たず
「……思えばあれが間違いだった」
夕食時で混み合うファミリーレストラン。
久城尚は目の前のハンバーグをつつきながら呟いた。
「どれだ。心当たりがありすぎて見当もつかない」
向かいに座る九條宰はラーメンの湯気に眼鏡を曇らせた。
「あれっすか。俺がうっかり戦うって言っちゃったのが…」
久城尚の斜向かいに座る九条僚が、ストローをいじりながら肩を落とす。
「確かにあれは失敗だったと思うけど…。命を盾に取られれば遠からずそういう選択にはなってたでしょうよ」
「確かに」
「あ、お母さん。ジャージー戦隊だよ!」
隣の席の子どもが、急に声を上げた。
「っ…!」
その言葉に、三人は身を固くする。
「あら、また今日も化け物が出たのね…」
子どもの指差す方を見て、母親が顔を曇らせた。
どうやら外にある街頭テレビで、ジャージー戦隊の事が取り上げられているようだった。
「俺、あんなカッコ悪い呼ばれ方するなら、なんかチーム名考えとけばよかったって思うんすけど」
九条僚が子どもを眺めながら呟いた。
「うさぎさーん!」
兎の耳を付けた白いジャージの青年がお気に入りなのだろう、子どもが一層声を弾ませた。
「俺はアレだな。耳は断固拒否すべきだったと思う」
深い溜息は、彼の葛藤の深さだ。
「誰なのかしらね、あの三人組…」
母親が呟く。
それはマスコミも警察も、血眼になって追っている謎だ。
「……フードじゃなくてさ、フルフェイスのヘルメットは必須だったと思うわ」
「……確かに」
「俺もいつもヒヤヒヤします」
三人は揃って街頭テレビに目をやる。
豆粒のようになっている赤と、茶色と、白。
それは紛れもない。数時間前の自分達の姿だ。
そう。
彼らは今、世間を賑わせているジャージー戦隊の三人だった。
少女、久城尚は赤いジャージに猫耳フード。通称、ネコ。
少年、九条僚は茶色のジャージに犬耳フード。通称、イヌ。
青年、九條宰は白いジャージに兎耳のフード。通称、ウサギ。
「あの時大人しくくたばってれば!こんな面倒他人に押し付けられたのに!」
「え、そこから!?」
「根本的すぎる…」
悔しげに握られた拳。
ネコと呼ばれる少女の言葉は、しかし紛うことなき彼らの本心だった。