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正義の不在

「よし、行くぞ」


 サタンの声に、6人は振り返る。


「どこにじゃ?」


 貧乏神が首を傾げた。


「街だ!今日こそあの憎いジャージ共を…」

「めんどくさーい」

「っていうか、さっさと悪さだけして、ジャージが来る前にトンズラすりゃ良いんじゃないか?」


 パンとべルゼバブがやる気のない声を出す。

 

「な…正義の味方を倒してこその悪だろう!?」

「その割に、子猫さんに食べ物やったりしてるよね。…ホント、憎たらしい」


 エンヴィが憎々しげに呟く。そういう彼は、ネコの家に忍び込んでは色々な物を置いて行っているらしい。その代りにネコの私物を盗ってくるようで、要は一方的な物々交換である。

 その影響か、底の深いフライパン一つしかなかったネコの台所には、フライパンから鍋、小鍋まで、取っ手の取れる一式が置かれることなった。もはや足長おじさんのようだ。


「…悪さをすれば十分悪じゃないのか?」

「……」

ルシファの言葉に13も同意だと尾を振る。


「ぐっ…」


 6対1という圧倒的な数の差に、サタンは民主主義の厳しさを知った。

 そうして、揺らぐ悪役の定義。


「まぁ、子猫さんには会いたいしね。行ってもいいよ」

「じゃあ、僕もウサギさんに遊んでもらおーっと。お菓子くれるかな?」

「暇だしな」


 よっこらしょ、と腰を上げる面々に、サタンが叫ぶ。


「結局行くんじゃねぇか!」

「文句ある?」


 すかさずエンヴィの冷たい目がサタンを射抜く。


「……いいえ」


 蛇に睨まれた蛙の心境で、サタンはすぐに降参の意思を示した。



 公園には、7人以外誰もいなかった。

 7人の姿に、度々化け物の出現を目の当たりにしている住人は素早く避難したらしい。

 閑散とした公園。


「……ねぇ」


 声をあげたのはパンだ。

 タイヤの遊具に座り、足をぷらぷらさせている。

 その姿は見た目と相まって、公園で遊ぶ子どもそのものだ。


「いつ来るの?」


 ただ、その表情は不機嫌に顰められていた。


「…もうすぐだ」


 サタンが答える。こちらも苦い顔をしている。


「それもう何回目?!もう1時間もこの状態じゃん!」

「仕方ないだろ!奴ら来ないんだから!」


 正義の、不在。

 創造主たる神も、日曜は休んだという。クラウドなど、常に休みのようなものだ。正義にも休みがあるのかもしれない。それを執行する彼らにも。


「来ないねぇ…子猫さん」

「あぁ」


 退屈そうにエンヴィが欠伸をする。ブランコでゆらゆらと揺れる姿は、哀愁を漂わせている。


「ウサギさん…遊んでくれると思ったのに…」

「あぁ」


 頬を膨らませるパンに、ルシファが頷く。ルシファの場合、3人はパンの遊び相手のようなもののようだった。


「ソレ目的違う…」


 すでに突っ込むのにも疲れて、サタンはシーソーに座り込んだ。

 年長者たちは自販機までお汁粉を買いに行くそうだ。


「まだいたのか」


 3時間待って、そろそろ帰ろうかとサタンが腰を上げた、直後。

 金と茶が目に飛び込んできた。


「出たな、イヌ!」


 公園に入ってきたのは、金髪に茶色のジャージを来た、イヌ。


「おまえら、結構前からいないか?」

「3時間待たされた!何してたんだ!」


 三本指を突き出すサタンに、イヌが呆れた顔をする。


「良く待つな…。おベンキョ―だよ。つか、公園でそんなに粘るな。ガキが遊べねーって泣いてたぞ」

「そ…それは悪いことを…」

「サタン、俺たち悪だから。良いんだよ、それで」

 

 うろたえるサタンに、エンヴィが冷静に突っ込む。


「は、そうか。危ないところだった…!」

「っていうかさ」


エンヴィが口を開いた。


「なんでお前なの?子猫さんに会いに来たのに」

「は?」

「そうだよ!ウサギさんと遊びたかったのに!」


 パンが大きな目に涙をためる。


「お前なんか、お呼びじゃないんだよ!」


 2つの声が重なり、公園に響き渡った。


「……なんつーか…悪い?」


 何が悪いかもわからずに謝るイヌに、サタンたちが憐みの目を向けていた。

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