人気者はつらいよ
こうなってくると思うのですよ。
三人が駆け付けると、そこは黒山の人だかり。
「あ、ダメンジャーだ!」
「ダメンジャーが来たぞ!」
三人を見止めた人々が口々に言う。
警察でダメンジャーと命名された彼らは、マスコミを通してその名を浸透させていた。
ダメンジャーとして紹介された彼らは、現代のリアルヒーローとして一部の国民に熱烈な歓迎を受けている。
敵が現れるたびに、危険を顧みない見物人の山ができるほどに。
「いや、逃げろよ」
思わず呟いたのは比較的常識人のウサギだった。
化け物と一定の距離を保っているようだが、見物人に危険がないとも言い切れない。
「……駄目な人間代表って、看板しょってるみたいでヤダな」
「……確かに」
イヌの言葉に、ネコが頷く。フードを引っ張って顔を隠そうとするのは、見物人が多いせいだろう。望遠カメラを持っている見物人や、記者もいるようだった。
「一応、写真とか映像では、俺たちの顔わからないようになってるんですよね」
「クラウドが、そうしたはずよ」
「どう写してもぶれたり光が入ったりするんだよな」
こればかりは、クラウドに感謝したいものだ。
三人は溜息をもらした。
「にしても、人多いですね」
周囲を見回してネコが漏らす。
四方を囲む人だかり。中心には三人と敵。
巨大なコロシアムにいるようだ。
差し詰め三人は獅子と戦う剣闘士と言ったところか。
「危ないし、やりづらいんだが…」
そういって、困ったように頬を掻く。
彼らを巻きこんだりしたら、シャレにならない。
いやむしろ、嬉々として建物や道路を壊して来た三人だ。
わざわざ危険に身をさらす見物人に気を使え、巻きこむなと言う方が無理がある。
「人まで傷つけたら今度こそ豚箱行きっすね、二人とも」
のんびりとイヌが言った。
周囲には観客を押さえている警察官の姿が見える。
見物人を巻き込んだが最後、現行犯で即逮捕、の結末が待っている。
「あんたも似たようなとこ行くのよ。少年院」
「それか俺たちが出てくるまで、一人でヒーロー頑張れよ」
「え、嫌っすよ!」
どっちも嫌っす、とウサギとネコの言葉に、イヌがうろたえる。
「っていうか、さぁ…」
「あぁ」
見物人たちを見る。
興味津津な顔、顔、顔。
三人は特大の溜息をついた。
――邪魔だなぁ…
なんて、思うわけですよ。
「いっそ、一発ぶち込んでやれば、蜘蛛の子を散らすように、こう…」
「だから、捕まるっすよ!」
見物人たちを見て危険なことを考え始めたネコを、イヌがなだめる。
「そうだぞ。それに、俺たちが直接手を下さなくても、あいつがぶち込んでくれる可能性だって…」
ウサギはそう言うと、敵の方を見る。
「そっちの方がタチ悪ぃ!」
どうも成人組は、少々過激な考えらしかった。
普段穏健とは程遠いイヌが、必死で二人をなだめる。
「ま…まぁ、ほら。応援してくれてるみたいだし、良いじゃないすか」
イライラが募っているらしい二人に、イヌが言葉を重ねる。
このメンバーでなければ、イヌが二人のポジションにいたはずだ。
先日殴った街の男の顔を思い出して、イヌは溜息をついた。
もう一発殴られてはかなわない、とイヌをなだめようと見え透いた世辞を言い連ねていたその男。
――今ならお前の気持ちがよくわかる。
「ネコちゃーん!」
「ほ、ほら、ネコさんの応援…」
タイミングよく聞こえた野太い声に、便乗してなだめにかかる。
「好きだー!」
「萌えー!」
あまりにも典型的なノリに、言葉は尻すぼみになる。
「………」
応援、とは少々種類が異なるようだった。
「いや、でも好意を持ってるって…」
しどろもどろに言葉を続ける。
「……良く見てみなさい」
呆れた顔でネコが見物人を指さす。
イヌは素直に、指指された方向を見た。
「ネコたん」
「ネコ耳…かわゆす…」
「セッタ氏、キャメラの用意は!?」
「ばっちりであります、カキタ上等兵!」
典型的な、否、悪いステレオタイプのオタクと呼ばれる人たちがそこにはいた。
「………」
ネコを2次元に起こしたようなTシャツを着こみ、横断幕には『ネコLOVE』の文字。
望遠カメラを構える者も多数いる。
そして、全員頭にネコ耳のカチューシャ。
「うれしいか?」
こころなしか冷たいネコの声。
「……自分は許容範囲外であります、軍曹殿」
「私もだ、ツカサ一兵卒」
そう言い捨てて、ネコは視線を化け物い固定した。
ネコのご機嫌取りは、不可。
「で、でもウサギさんのファンはそんなんじゃないっすよね!」
ネコは無理だと判断し、イヌはターゲットをウサギへと変える。
ウサギのファン層は把握済みだ。
普通の女性が多い。
キレイ系より可愛い系の比率が高そうだ。
「……いや…それはそうなんだが」
ウサギの顔は曇っている。言葉も歯切れが悪い。
ハーレムも夢ではなさそうな状況だというのに、なぜ、とイヌは首を傾げる。
「ウサギさーん!」
「うさちゃーん!」
「可愛いー!」
黄色い声が力の限り叫んでいる。
「あの…呼び方は…」
「あぁ…」
ウサギの言葉に、イヌは納得して頷いた。
男のプライド的なものが傷つきますよね。
「って、俺のファンは!?」
イヌにもちゃんと居ります。おねぇ様系と清純系が。




