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ネコの日常・サタンの日常

 人に姿を変えたサタンは、嗜好品たる人間の食べ物を買いにスーパーに来ていた。


「まったく、リーダーをなんだと思っているんだ、あいつら」

 

 口にしてみても、どうせ都合のいいパシリだとか、面倒事を押し付けられる中間管理職のようなものとしか考えていないだろうメンバーにため息しか出てこない。

 これでも他の派閥との調整や縄張りの中にいる上位のお仲間の管理など、忙しい身なのだ。ついこの間の派閥会合では、殺し合いに発展しそうになった。簡単に死にはしないが、勘弁してほしいの一言に限る。

 内心不満を抱えながら、買い出しメモに書かれた品物をどんどんカゴに入れていく。


「ルシファのキャットフード、パンのお菓子、貧乏神は酒につまみ、エンヴィはロマネ・コンティ…ってふざけるな!高いわ!13はミネラルウォーター、ベルゼは…『なんか食いもん』ってなんかってなんだ!」

 

 毎度毎度、なぜ自分が買い出しに行かなければならないのかと、ここにはいないメンバーに対してイライラが募る。

 すべては彼らの中で威厳を保てない自身のせいだ。あぁ、そうだとも。


「ん?あれは…」


 自分の食べるキャベツを選んでいると、視界の端に酷く嫌なものが映った。

 酷く見なれた、ブラウンの長髪。

 いつも小豆色のジャージを着た、やる気のない凶暴少女。


「……ネコ…」

 

 近くの棚の影に隠れて様子を覗う。

 ネコは目の前の商品に集中して、サタンには気づいていない。


「……よし、こっちの方が重い。あ、でもこっちのほうが数が多いから…」

「……」

 

 ネコは特売の玉ねぎを買い物かごに入れる。


「お、嬢ちゃん今日も来たか!よし、まだ早いけど割引シール貼ってやる!どれがいい?」

「おじさんありがとう!じゃあ・・・これとこれで」


 浮かべたのは満面の笑み。

 精肉コーナーのおじさんはデレデレと表情を緩めている。


「……」


 ネコは精肉店で安い豚肉を更に安く手に入れたようだった。


「さぁ、タイムセールの始まりだよ!今日の目玉は…」

「じゃ、またねおじさん!そりゃぁあぁぁっ」

「頑張れよー」

「……」


 今日の目玉の卵を取るために、主婦の塊に突っ込んでいく。

 誰だ、あれは。

 サタンの困惑に、誰も答えてはくれなかった。


「見間違い、か?」

 

 さっきのは何だったのか、とサタンは首をかしげる。

 対峙する時の口の悪さはなりを潜め、眉間の皺はきれいさっぱりなくなっていた。

 それどころか笑みを浮かべ、鐘の音を聞いた瞬間、瞳には闘志がみなぎっていた。

 そういえば恰好も、スカートなんざ履いていた。


「…双子の妹、だったりして」


 それならば納得がいく。

 会計をすませ、ばれないようにネコによく似た少女の後ろを通り過ぎる。


「…!」


 瞬間、衝撃を覚えた。

 彼女は確かにネコだった。

 戦闘中に見つけた手の小さな痣が、そこにはあった。

 だが、衝撃はそこではなかった。

 サタンに気付かずせっせと手を動かすネコ。袋に詰められる商品。

 一袋十数円のモヤシ、モヤシ、モヤシ。数十円の豆腐。特売の卵。

 他のものには全てに値引きシールが張られていた。

   

「遅かったね」

「あぁ」

「サタン、お菓子ー」

「……」

「酒は…」

「食いもん」

「水」


 ろくなねぎらいの言葉が無いのにも苛立つが、真っ先に浮かぶのは先ほどのネコの姿。


「おまえたち」

「?」


「これから一週間、モヤシな」


なんとなく罪悪感に苛まれたサタンであった。



おまけ。


その後


「ふははははっ」

「げっ」

「ネコよ、お前に良い物をやろう!」

「は?」


「お米券だ!」


「え、ホントに?!」


「……餌付け?」

「券だから邪魔にならない。細かい気配りってか?」

ネコさんは貧乏学生という設定が…

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