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俺だって、(好きでやってるわけじゃない!)

ウサギの社会人生活は、危険と隣り合わせです。

「そう言えば、ジャージの三人組、ここら辺でも出ますよね」

「あぁ、耳フード三人組な。たまに二人とか一人だけど」

「………」


 それは昼食中の何気ない会話だった。何気ない会話が、いつの間にか危うい地雷原へと突き進んでいたことにウサギが気付いた時には、既に遅かった。後輩の女の子に、同僚がこたえる。


「俺ネコとイヌなら見たことあるぜ。ネコ可愛い感じだった」


 中身は怖いがな。

 同僚の言葉に心の中で返す。迂闊なことは言えないため、口は昼食を食べることに集中させている。

 確かにネコは、世間一般で言う可愛い部類の少女だろう。ついこの間、敵に愛の告白をされたばかりだ。けれど、綺麗な花には棘がある。敵を前に、寄せる眉間は剣呑で、口を開けば心を抉る鋭い言葉。攻撃も的確で容赦がない。時にこちらが目を瞑ってしまいたくなるほどに。おそらく、三人の中で一番敵を倒すことに向いている。


「私もあります!イヌくん、目つきちょっと悪くて不良っぽいけど、母性本能くすぐられる感じで…!」


 それは割と当たってるか?

 むしろ変身しない方が強いのではないかとたまに思う、イヌの姿を思う。変身を解いた彼は硬派な不良のような感じだし、通っている高校も有名な不良高だったはずだ。けれど変身中の彼は、若さなのか性格なのか少し抜けていて、ネコに良く怒られている。さながらご主人様と犬の様だ。


「俺は遠目だが、ウサギ見たぞ」

「……」


 地雷を踏んだのは上司だった。被害者はウサギであったが。

 冷や汗が一筋、背を伝う。


「割と長身で、眼鏡」


 よし、ざらにいる!

 心の中でガッツポーズを作る。それだけの情報ならば特定はされないだろう。


「一番年長らしいですね。かっこいいという噂も!」


 後輩の言葉に頬が赤くなる。


「えー、でもさ」


 同僚が口を挟む。


「良い年した男がウサギの耳付けてるのって、イタくね?まじ着てる奴の正気を疑うんだけど」


『イタくね?』

『正気を疑うんだけど』


 同僚の言葉が頭の中で繰り返される。

 あぁ、それは俺がいつも考えていることさ。ウサギの耳なんて、それこそネコがつける物だろう?彼女なら似合う。何も三十路も意識し始めた俺に着せることは無いじゃないか。体格だって、華奢というわけではないし、顔も「男」だ。


「えー、可愛いじゃないですか」

「違和感無かったなぁ、意外と」


 後輩と上司が何か言っていたが、まったく頭に入ってこなかった。

 俺だって、好きでやってるわけじゃない!

 そう叫べたなら、どれだけ良かったろう。

「あ、ほら、九條先輩とか、似合いそうじゃないですか」

「あー、確かに」

「違和感無いな。ウサ耳九條」


 何か良くないことを言われた気がして、は、と意識を戻す。


「へっ?何か?!」


 それから、しばらく。


「……ウサギさん、どうしたんですか」

「…いや」

「前見えるんすか」

「……いや」


 顔を隠そうと必死にフードを引っ張るウサギの姿がありました。



おじさん(ではない)は割とデリケート

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