イイヒト
「ふははははっ、今日こそは!」
その声に、ネコはうんざりと顔を顰め、ウサギは深いため息を吐いた。
「毎度七人そろってお疲れ様」
「暇なのか?」
若干疲れた顔を見せ、ネコとウサギが応じる。
毎回毎回出てくるたびにうるさいのだ。最近はひとしきり話した後何もせずに帰ってしまうこともある。彼らが現れるたびに変身して出て行かねばならないこちらの迷惑というものも考えて欲しいものだ。
「……地味にくるんですよね」
「わかるぞ。営業途中で出動になることも多いからな。成績が下がった」
おかげで、上司からは心配され、更にその上の上司には嫌味を言われる日々だ。最近ウサギは胃薬を持ち歩くようになった。
「私はバイトに入れなくて」
生活費はバイトで賄っているネコにとっては、まさに死活問題である。
最近はもやし「だけ」炒めの回数が断然増えた。肉など友人の恵んでくれるチャーシューくらいなものだ。
「案外、それが狙いだっりして」
「納得できるな」
確実に、このいやがらせは二人を疲弊させていた。それは、イヌも同じだった。
二人でぼそぼそと話しているとサタンがきょろきょろと周囲を見回して言った。
「おや?今日はバカイヌはいないのか」
目つきだけは誰よりも怖い、残念なイヌの姿が見当たらない。
「あぁ、イヌは補習だ」
「ホシュウ?」
ウサギが答える。
知らない言葉に首をかしげる。
「余分に勉強してるの。あんたたちがこの前試験期間中に出てくるから、テストで赤点取ったのよ」
ネコがウサギの言葉を補足した。
よりによって、一番苦手な世界史の試験の前日に、サタンたちは出てきて、何もせずに去って行った。次の週、生まれて初めての赤点をイヌは目にすることになる。
そうして今、彼は補習授業を受けているのだった。
さすがにそれはさぼらせられない、と、ウサギとネコはいつも以上にヒーロー業に精を出さざるを得なかった。
「そ、それは、よくわからんがすまなかった」
「…や、別に」
「根は良い奴なんだな」
本気で謝るサタンに、ネコとウサギの心境は複雑だ。
「悪としてのアイデンテティをどんどん失ってるけど、良いのかしら」
「…さぁ」