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「昔、お母さんとお父さんは仲がいい夫婦だったみたいなんです。新婚旅行は地球一周。家は豪華一軒家。有名財閥の家系のお父さんと普通にお金持ちなお母さんだったので、生活に苦しむこともなく、仲良く暮らしていました。――僕という異分子が、生まれるまでは」

 本来ならば僕は産まれる予定の無い子でした。両親に望まれない子供。だけど、両親の親にあたるおばあちゃんとおじいちゃんがお母さんのお腹の中の僕という存在を、知ってしまったのです。

「お母さんは僕を堕胎する訳にはいかなくなりました。重い僕をお腹に宿し、そして僕は産まれたのです」

 両親は、笑っていなかったみたいなのです。お母さんは、お父さんは、おばあちゃんとおじいちゃんが家に帰った後、ため息をついたらしいのです。

「それでも、お母さんとお父さんは僕を育ててくれました。僕が病気になっても一生懸命看病してくれました。それが例え、世間様に見放されないようにとった行動だとしても、僕にとってはとても嬉しいことでした。だけど、とうとう僕が見放される時期が来てしまったのです。それが今日なのです」

 僕を可愛がってくれたおばあちゃんとおじいちゃんが、母方と父方の四人共が全員、死んでしまったのです。

「僕は、捨てられました。この事実を両親から無表情で伝えられ、綺麗な服と、少しのお金と少しの食べ物をポケットの中に入れられ、捨てられたのです」

「…………」

 私は。

 男の子の話を聞いて、無性に腹がたってきました。こんな、こんなに不条理なことが果たしてあっていいのでしょうか。ふざけるな。叫び倒してしまいたいです。博士を苦しめるだけならまだしも、何の罪もない無垢な男の子まで苦しめるこの世界というものに対して、叫び倒してしまいたかったのです。お母さん。お父さん。何故男の子を、何故私を捨てたのですか。理由が、理由がある筈。そうに違いないです。こんな、こんな悲しい理由で捨てるなんてあってはならないのです。

 無関心。

 それだけは、駄目です。駄目なのです。

「ありがとうございます、お姉さん。僕の話なんか聞いてもらってくれて」男の子は涙を流していました。だけど、笑顔でした。私を極力悲しませないようにする為でしょうか。

 気付くと、私は男の子を抱きしめていました。温かく、小さな体。男の子は一瞬戸惑った様に私の顔を見上げましたが、私が笑いながら男の子の顔を見ると、私の胸に顔を埋めながら、男の子は泣き始めました。お母さん、お父さん、何で僕を捨てたの。何で僕を見捨てたの。叫び声がゴミ屋敷に響き渡り、泣き声がこだましました。それらはどちらも、二種類が重なった合唱でした。

私は、ずっとこうしていたかったのです。男の子を抱きしめ、男の子が私を抱きしめ、同じような境遇の二人が抱きしめあうこの状況は、とても心地よかったのです。

 ですが。

 それは、不可能でした。


 ――突如、私の後方にある部屋から、バリバリバリという大きな音が聞こえてきたからです。


「え、えっ」男の子が慌てて私から離れます。「お姉さんっ! お姉さんの体とあの部屋が、光ってるんですけど!」

「そんな、そんなことってありますか!」

 何ですかこれは。何でタイムマシーンが作動しているのですか。何でタイムマシンがある部屋から電気がもれ、私の体と同化しているのですか。まさか、タイムマシーンの暴走という奴ですか? それとも故障? そんな――そんなことってありますか。ふざけないでください。私はまだ博士の病を治す治療法を見つけていません。「私はまだ、この子と喋っていたいのに!」

「…………」

 私と同じようにうろたえていた男の子でしたが、私の発言を聞いたからか何なのか。

 慌てるのを止め、私にもう一度、静かに抱き着いてきました。「僕は大丈夫です。この先何があるかはわかりませんが、掃除をして、ここで一人で生活します。お姉さんが言っていた、博士と同じように」

 男の子の言葉を聞き、私は感極まりました。この男の子はどれだけ優しければ気がすむのでしょう。私よりも何倍も辛い筈なのに、それなのに、私を苦しませないように私を慰める発言をする男の子。体が本格的に光ってきました。目の前が白くなる感覚が私を包みましたが、しかし、私はまだ帰る訳にはいきません。

「私の名前は谷山ななせといいます。貴方の名前を教えてください!」

「え、ぼ、僕の名前は鳥山義弘といいます」

「義弘君!」私は叫びました。義弘君を抱きしめながら、叫びました。「両親のことなんて忘れちゃえばいいんです! 貴方に渡したっていうお金をパーっと使って、貴方に渡したっていう食べ物をパーっと食べて、決別しちゃってください! 大丈夫です! いつかきっと、生きていればきっと、楽しい未来が待っていますから!」

 消えかかる意識の中。

 私は義弘君にそう告げて、現代に戻りました。

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