表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

4たマ 今度のバズり企画は、所沢市で魔界の珍種ゲットだぜ!?

 放課後のチャイムが鳴った瞬間、二年一組の教室は、堰を切ったように騒がしくなった。


 部活に向かうメデューサ(周りの生徒に配置して石化能力封印中♪)の女子生徒。


 帰宅するゴーレムの男子(?)生徒。


 学校で飼育してるケルベロスの散歩当番に指名され、涙目になる元埼玉県民の男子生徒。


 そんな中、八尺千尋は、教科書を鞄に放り込み、光の速さで教室を脱出しようとしていた。

  

 ――だが。


 「待って千尋ー!!」


 その背中に、悪魔のように明るい声が突き刺さる。


 反射的に足が止まった。


 それが、彼の敗因だった。


 次の瞬間、狼神(おおがみ)フラニーが、背後からガシッと腕に絡みつく。


 「はい確保~♡」


 「は、離せフラニー!今日は絶対、真っ直ぐ帰るって決めてたんだ!!」


 千尋は必死に抵抗するが、狼女の腕力に、勝てるはずもなかった。


 「何言ってんのよ?放課後の大事な用事あるでしょ?それは――」


 フラニーは、キラキラした目で宣言した。


 「新学年恒例のフラニーちゃんバズり企画会議なのだ~」


 「そんな恒例は聞いてないし、ボクは参加しない!帰る!!」


 「もう確保したから却下!強制参加ね♡」


 「治安が悪い!!」


 その様子を、少し離れたところで見ていた朝霞ユイは、深いため息を一つついた。

[image=https://caita-image.com/image/01KDW361AK9J8TBWS3X4MQ0TP3.png]

 「はあ。また始まったか」


 そして案の定、フラニーはユイの前にも回り込む。


 「ユイも来て!三人揃わないと会議にならないから!」


 「そもそも会議に参加するって合意してないんだけど?」


 「細かいこと気にしない気にしない!」


 「細かくない!」


 こうして――千尋とユイ本人たちの意思とは無関係に、放課後バズり企画会議は、教室の隅で開幕した。


 フラニーは机を引き寄せ、その上にスマホをドン!と置く。


 「二人とも、まず聞いてほしいんだけどさ」


 彼女の声は、すでに愚痴モードに入っていた。


 「昨日の企画動画!荒川土手で自転車漕いで、首モゲたやつ!」


 千尋とユイは、同時に目を逸らした。


 「あれ、絶対いけると思ったんだよ?チャリで音速突破(未遂)!フラニーの首が強制分離!首なしライダーで、職なしライダーのタクゾーさん乱入!」


 「あれね。無駄に情報量は多かったね」


 ユイが、乾いた声で言う。


 「でもね!」


 フラニーは、悔しそうに机を叩いた。


 「コメント、たったの三件しかないの!!」


 「三件あれば十分じゃない?」


 「よくない!!」


 フラニーは、スマホを操作しながら叫ぶ。


 「しかもさ!コメント内容がこれ!」


 画面を二人に向ける。


 そこに並んでいたのは――


 ・「首が取れるの、さいたマ界だと普通」


 ・「喋る首なしライダーの方が気になる」


 ・「音速は盛りすぎ」


 沈黙。


 数秒後。


 ユイが、静かに口を開いた。


 「……ねえフラニー」


 「なに?」


 「この三番目のコメント、ユイが書いたやつ」


 「え?」


 続けて、千尋が小さく手を挙げる。


 「二番目は、ボクの」


 フラニーは、ゆっくりと二人を見比べた。


 「はあぁぁー!?ち、ちょっと待って?それじゃあ……」


 恐る恐る、最初の一件を見る。


 「一番目は?」


 「知らない人」


 「新規視聴者は、たったの一人ってこと?」


 フラニーは、がっくりと机に突っ伏した。


 「マジかあー!実質、身内しか見てないじゃん」


 「むしろ、身内がちゃんとコメントしてあげてるだけ優しいと思うけど?」


 ユイの正論が、胸に突き刺さる。


 「女の子の首モゲたんだよ?普通なら大事件だよ!」


 「ここ、さいたマ界だからさ。そんなの日常茶飯事だよ」


 「ぐぬぬ!ユイ、あんた人間のくせに、魔界の日常茶飯事に順応しすぎ!!」


 珍しくツッコミ役に回ったフラニーは、唇を噛みしめる。


 その時。


 彼女の脳裏に、朝のホームルームで聞いた湘南セイレーン先生の声がよみがえった。


 『所沢市の狭山湖は、さいたマ界の重要な海産物供給地なんですよぉ~。魔界の海に住んでるクラーケンとか、魔界マグロとか獲れますし~』


 「……あっ」


 フラニーが、顔を上げた。


 その目が、嫌な輝きを放っている。


 「ねえ!二人とも♡フラニー、凄く面白いこと思いついた」


 「う!そ、その顔やめて!嫌な予感しかしない」


 ユイが即座に警戒する。


 「フラニー落ち着け!深呼吸して、よーく考え直すんだ」


 千尋も必死に止めに入る。


 だが、フラニーは止まらなかった。


 「荒川土手で首モゲてもダメならさ」


 彼女は、拳を握りしめる。


 「狭山湖だよ」


 「「は?」」


 「所沢市の狭山湖で!」


 フラニーは、立ち上がって宣言した。


 「クラーケン!もしくは魔界の珍種を見つける!そんでもってそれを捕まえてバズる!!この企画ならイケる♡」


 教室の隅で、空気が凍った。


 「「いやいやいやいや」」


 ユイが、こめかみを押さえる。


 「それ、昨日の自転車で音速突破企画より、危険度跳ね上がってるからね?」


 「ボクらみたいな中学生が行く場所じゃない!」


 千尋も、全力で首を振る。


 「でもさ!」


 フラニーは、楽しそうだった。


 「セイレーン先生は、普通にやってたよ?副業で!」


 「あの先生は、マーメイドだから特別なの!生粋の埼玉県民のユイがやっていい理由にはならない!」


 「じゃあさ」


 フラニーは、ニヤリと笑う。


 「先生に聞いてみよっか?」


 「オイィィィ―!アンタは、いい加減に人の話を聞く癖を付けろよ!!」


 二人のやり取りを見た千尋は、思った。


 (あ、この流れ――もう止まらないやつだ)


 放課後の教室に、新たなウザさMAXな嵐の種が、しっかりと蒔かれた瞬間だった。


 そして、この時の三人はまだ知らない。


 所沢市の狭山湖という場所が、彼らの想像よりもずっと、面倒で、ややこしいということを。


 そもそも!所沢市は、埼玉県の中でも評価が難しい街であーる!


 都心に近いようで遠く、田舎のようで都会ぶった中途半端な雰囲気を醸し出している。


 他県民に「所沢市って、何があるの?」と聞かれると、埼玉県民ですら答えに三秒くらい詰まる。


 そして、五秒後くらいに「ま、まあ、住みやすいよ?」と、語尾が疑問形になる不思議な土地だ。


 実際、名産品や名所を挙げようとすると、里芋やホウレン草などの野菜(とっても美味しいよ!)、航空発祥の地、埼玉西武ライオンズの本拠地であり、ドーム球場なのに雨に濡れるという噂の「西部ドーム」……と、情報が散らかって収拾がつかない。


 観光地としても、「ついでに寄るならアリかもしんないや!アハハ!」という不名誉な評価を長年勝ち取り続けてきた。


 だが、しかし!だーが、しかーし!忘れてはいけない!!


 所沢市には、〝西武園ゆうえんち〟という切り札が存在するのだ。


 昭和レトロ全振りのテーマパーク。何故か涙腺を殴ってくる商店街風な通り。良い意味でテンションが高くて客を盛り上げてくれる住人(演者)。


 気づけば大人も子供も、「あれ!?なんか楽しいかも♡」という、説明不能な感情に包まれて帰る埼玉県屈指のメンヘラ……じゃなくて!!メルヘンな場所である。


 そして、フラニーのバズり企画の舞台に選ばれた狭山湖。


 埼玉県時代は、静かで地味で、ボートに乗るか、ぼんやり眺めるくらいしか使い道のなかった貯水湖だった。


 だが、今では魔界の海と融合し、クラーケンが泳ぎ、魔界マグロが獲れる。


 それらは、回転寿司のネタになり、スーパーマーケットいなげやでは、開店と同時に半額シールが貼られる商品になってるという意味不明な進化を遂げている。


 考えてみれば、これほどカオスな環境を「まあ、埼玉県の中でも、立ち位置が中途半端な所沢市だからな」の一言で県民が受け入れている街は、さいたマ界広しといえど、他にない。


 地味?違う!


 目立たない?それも違う!


 所沢市は、異常を異常として扱わない才能に全振りしている街なのだ。


 ☆☆☆☆☆☆



 「よし!決まり!」


 フラニーは、勢いよく二人の手首を掴んだ。


 「決まってない!!」


 「ちょ、引っ張るな!!」


 ユイと千尋の抗議は、暴走列車の前に置かれた踏切くらい、あっさり無視された。


 フランケンシュタイン譲りの腕力&狼女由来の脚力で、フラニーは二人を引きずるように教室を出る。


「ちょっと!どこ行くの!?」


「決まってるでしょ?」


 フラニーは、振り返りもせずに言った。


 「職員室♡」


 「最悪の行き先!!」


 千尋の悲鳴が、廊下に虚しく響く。


 放課後の校舎は、静かだった。


 ……というのは建前で。


 その名前のせいで、学校中のトイレ掃除を命じられたトイレの花子さん(見た目ギャル♡)が、「ふざけんな!」とキレてモップをへし折るし、廊下の隅では、ミイラ男が、自らの体に巻かれた包帯で雑巾がけをしている。


 そんな日常のカオスを突っ切り、三人は職員室前に到達した。


 「ノックとかしないの!?」


 ユイが言い終わる前に、


 ガラッ!


 フラニーは、勢いよく扉を開けた。


 「セイレーン先生!!」


 職員室にいた数名の教師が、一斉に顔を上げる。


 その中で、机の上に錦鯉な尾びれを乗せていた担任の湘南セイレーンが、パッと笑顔になった。


 「あらぁ?フラニーちゃんじゃないですかぁ~♡放課後にどうしたんですかぁ?」


 フラニーは、一歩前に出て、胸を張る。


 「先生に、相談がありまーす!」


 嫌な予感しかしない空気が、職員室に満ちた。


 ユイは、両手で顔を覆う。


 千尋は、(職員室に入る前に、何が何でも逃げるべきだった……)と心の底から後悔した。


 「実はですね!」


 彼女は、早口でまくし立てる。


「先生ー!フラニーたちは所沢市の狭山湖で、クラーケン、もしくは魔界の珍種を捕まえたいんです!!」


 バズり目的ということは、あえて言わない計算高いフラニーであった。


 数秒の沈黙。


 関わり合いになりたくない周囲の教師たちが、ゆっくりと視線を逸らす。


 だが――


 「いいですねぇ~!!」


 セイレーン先生は、即答だった。


「先生ぃぃぃー!即答しないでくださいよぉぉぉ!!」


 ユイが反射的に叫ぶ。


「いやいや、だって♡」


 彼女は、嬉しそうにピチピチと尾びれを揺らす。


 「狭山湖は、さいたマ界の歴史的に重要な学習フィールドですし~。現地で学ぶことって、大事じゃないですかぁ?」


 「学ぶ内容が危険すぎます!」


 「えぇ~?クラーケンなんて、慣れれば可愛いものですよぉ?」


 「慣れる前に死にます!!」


 ユイのツッコミは、元埼玉県民として、いや人間として完全に正論だった。


 だが、セイレーン先生は、まるで聞いていない。


 「そうだ!」


 ポン!と手を叩く。


 「それ、校外学習にしましょう♡」


 「ええー!その単語一言で片付けちゃうんですかぁ?」


 千尋が、悲鳴に近い声を上げた。


 「ちゃんと申請すれば問題ありませんし~。先生も同行しますし~」


 そう言って、先生はニコッと笑う。


 「安全第一ですよぉ?」


 その笑顔が、一番信用できないという事実に、二人は気づいていた。


 「ちなみに、いつ行くんですか?」


 ユイが、震える声で聞く。


 「うーん」


 彼女は、天井を見上げて少し考え、


 「次の土曜日で♡あと、他の生徒を連れて行くのは面倒くさいし、ウザいから四人で行きま~す」


 「早すぎる!!いやいやいや!それよりも生徒のことを‶ウザい〟って、アンタ本当に教師かよおぉぉぉー!?」


 青筋を立てたユイの怒号にも似たツッコミが、職員室に炸裂した。


 「準備とか!心の準備とか!」


 千尋は、しゃがみ込んで頭を抱える。


 「大丈夫ですよぉ」


 セイレーン先生は、軽くウインクする。


 「クラーケン捕獲セット。先生が全部持ってますからぁ♡」


 そう言って、三人に鞄を開けて捕獲セットを見せるお気楽なセイレーン先生であった。


 「「中学教師のカバンに入ってていい物じゃない!!」」


 ユイと千尋のツッコミが、見事にシンクロする。


 一方、フラニーは、彼らのやり取りを聞きながらも、心は完全に別次元にいた。


 目はキラキラ。


 口元はニヤニヤ。


「やったぁ……!」


 小さくガッツポーズ。


 「ついに来たよ!フラニーがバズる瞬間が!」


 その様子を見たユイは、深く息を吐いた。


 「ねえ、千尋?」


 「なに?」


 「この流れを止められると思う?」


 「無理!」


 二人の視線が、楽しそうにスケジュール帳に「狭山湖校外学習♡」と書き込むセイレーン先生に向く。


 こうして。狼神フラニー発案の狭山湖クラーケン捕獲企画は、


 ・担任ノリノリ


 ・学校公認


 ・次の土曜日決行


 という、最悪に整った形で動き出してしまった。


 その背後で、所沢市の狭山湖は、今日も静かに水面を揺らしている。


 ――その静けさが、これから訪れる騒動の前兆であることを、まだ誰も深く考えていなかったのであーる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ