0章②
牛丼を食べた次の日、僕は綾華さんに叩き起こされた。
「翔ちゃん起きて! 修行するよ!」
外は少し明るくなっただけでまだ暗くまだ起きるような時間では無くスマホで時間を確認すると、朝の6時半だった。翔夜は欠伸をしながら言った。
「まだ朝の6時半なのに、もう修行をするの?」
そう言うと綾華さんは学校の朝に起こしてくれる母親のように「7時に家を出るから、その準備をする為に今から起きるんだよ。綾も眠いんだし、おあいこなんだから……よいしょ!」
綾華さんは僕のかけていた羽毛布団を持ち上げた。
「って言うか、よく夏なのに羽毛布団で寝られるよね。暑くないの?」
「冷房つけながら寝てるから、全然暑くないよ」と言うと綾華さんは呆れた感じで「ええ……めっちゃ贅沢なことしてるじゃん……てか、また寝ようとしてるでしょ! 早く起きて!」
こうして僕は、眠い目を擦って朝早くに起こされた。
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あくびをしながらリビングへ行くと、綾華さんが机にフレークを並べていた。
「今日も龍ちゃん居ないし、料理も作れないから、このフレーク食べてね。」
沢山朝食を食べて家を出ると、僕が来たところは、家の近くにある山だった。
「なんで山に来たの? もしかして山奥で修行するって言う漫画みたいなことでもするの?」
「まあ、あながち間違ってはないけど、翔ちゃんが修行するのはあの山の頂上だよ。」
「頂上まで登るの? あんなに高いのに?」
目の前の山は、見るからに標高が高そうで、頂上まで登るのはかなりきつそうだと思っていると、綾華さんが言った。
「登る時は、妖力で自分の体を強化しながら登ってね。そう言えば翔ちゃんに、妖力で身体強化するやり方って教えたっけ?」
僕は困惑しながら「教えてもらってないよ」と答えると。
「やっぱりそうだよね。じゃあ今から教えるね。翔ちゃん、今の状態で自分の妖力の感覚って分かる?」
分からなかったので、とりあえず某漫画のような気を高めるようなやり方でやってみたけど何の意味もなかった。
「多分それをずっと続けても、出てくるのはおならだけだと思うし、なんか怒られそうだから早めに止めておいた方がいいよ」
そう言われた僕は少し不機嫌な感じで「じゃあどうすればいいの?」
そう聞くと綾華さんが僕に手を出して「じゃあ今から教えるから、手を出して」
そう言われて僕が手を出すと、綾華さんが手を合わせてきた。
「今から始めるから、手だけは離さないでね。」
「離さないのはいいんだけど、まだ何をするのか聞いてないよ。」そう言うと綾華さんはニコニコしながら「今からね、綾の妖力を翔ちゃんに無理やり送り込んで認知させるやり方だよ。やったことのある人いわく拒否反応があるらしいから、そこだけ注意してね。」
「なんでそんな重要な情報を今になって言うの⁉」
言い終わるのと同時に、体内にとてつもない嫌悪感と吐き気が押し寄せてきて僕は吐いた。
「大丈夫?ごめんね。ここまでひどい拒否反応が出ると思ってなかったよ。」
「誰のせいなんだろ……オエェェ……」
「本当にごめんね。それでどう?なんとなく感覚は分かってきた?」
僕は吐き終わった時、体全体に違和感と言うか変な圧迫感があった。
「多分、この感覚なんだろうなっていうのはあったよ。」
「それじゃあ次は、その感覚を手に集めてみることはできる?」
とりあえず僕は言われた通り体の中にある違和感を手に集めてみた。
「そうそう、できてるできてる。それじゃあそのまま全身を覆って固めてみて。」
僕は手に集まった違和感をもう一度全身に戻して、それを固めてみた。それをするために少し時間はかかったが、なんとかできた気がした。
「すごいじゃん翔ちゃん。初めてなのに覚えるのが早いね。それじゃあ、その感覚のままジャンプしてみて。めっちゃ飛べるよ」
僕はすごい胡散臭いことを言われたから笑いながら「ははは……まさかそんな、これで大ジャンプができる訳……」
半信半疑でジャンプしてみると、いつもの何倍もの高さも体が飛んだ。
「うわー‼飛びすぎでしょ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
僕はここまで飛ぶと思ってなくて、叫びながら空中でジタバタして受け身も取らずにケツから着地した。
「痛った!ケツの割れてた部分が押しつぶされて1つになっちゃう。」
そんなこと言ってたら綾華さんが心配そうな声で、「すごく痛そうだけど大丈夫?それでどうだった?思ったより飛んだでしょ?」
僕は痛くておしりを押さえてたけど目を輝かせながら「うん!こんなに飛べると思ってなかったよ。まじですげぇ!」
「しかも走る速度もめっちゃ早くなってるし、これならあれぐらいの山なら登れそうじゃない?」そう言って山の方を指を指した。
「確かに行けそうだけど、本当に行くの?」
困惑した感じで僕が言うと、「あそこへ行くために身体強化を教えたんだから行くよ!」
言い終わるや否や、綾華さんはすごい速さで走り出した。早速行くとは思っていなかったから少し出遅れた。気づいた時にはもう、綾華さんの姿が見えないくらい離れていた。
「ちょっと待って! 早すぎでしょ!」
僕は慌てて走り出した。
こうして綾華さんを追いかけて山の中に入ったけど登山道を通るのかと思いきや、なんの整備もされておらず獣道ですらないところを爆速で走って行く。途中で枝が顔に当たってきてめっちゃ痛い。道も凸凹で所々躓いてこけたりした。そんな中死ぬ気で追いかけ、なんとか追いついた時、2人は展望台に立っていた。
妖力で身体強化しながらでも、この山を登るのは死ぬかと思うくらい疲れたし枝のせいで顔や服も傷が入って血塗れになっていた。
「ゼェハァ……綾華さん……走るの早すぎるよ……」
「そう? 綾的には軽いジョギングのつもりだったのに……てかめっちゃ血塗れじゃん。大丈夫?治してあげるよ。」
綾華さんが指パッチンしたら僕の傷が全部ふさがった。そして布巾を妖術で濡らして僕の顔についていた血を拭いた。
「初めてにしてはちゃんと半分は着いてこれてるから、いいと思うよ。サッカーもやってたんだし、元から持久力がついてたのかな?」と言われた。この時サッカーをやっていたことを心から感謝した。
そして展望台の周りを見渡すと、住宅街が蟻のように小さくて、景色はきれいだけど修行するには狭い気がする。
「ここ、景色はキレイだけど、ここで修行するの? こんなところで修行する感じではなさそうな感じだけど」
「え? だからさっき半分まではって言ったでしょ? ここからさらに上へ上がるよ。水分取っといた方がいいから、はいこれ飲んで。」
そう言って、綾華さんはスポーツドリンクを渡してきた。受け取って飲むと、めちゃくちゃおいしくて生き返る感覚だった。
めっちゃおいしかったけど休んだらダメなのかな?そう思っているとそれを気づいたのか綾華さんが「休みたいなら上まで行ってからの方がちゃんと休めるから、休まずに行くよ。」
飲み干したのを確認すると、綾華さんが言った。
「身体強化の感覚、まだちゃんと覚えてる?」
僕はさっきの感覚を思い出しながらやってみて、10秒かかったが、なんとかやってみせた。
それを見て綾華さんは「できたっぽいね。それじゃあ行こうか。また綾に着いてきて!」
そう言って、綾華さんはさっきと同じ速さで走り出した。
今度はさっきみたいな道とも言えないところじゃ無くて獣道を通って行った。疲労に加えて、さっきよりもマシだけど草で肌が切れた。綾華さんは障害物をジャンプで軽々と越えていくが、ジャンプすると体がバラけそうになって飛べない。ただ無心で突っ走るしかなかった。
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ただ無心で走り続けていると、さっきとは比べ物にならないほど広い場所に出た。周りの景色を見た感じここは頂上の近くらしい。
景色は綺麗でさっきの展望台よりも住宅街が小さく見えてさっきよりももっと高いところにいるんだなって言う実感があった。それに風が結構流れてきて気持ちいい。
そして綾華さんが止まって後ろに振り向いたのを見て、僕はその場に倒れ込んだ。
綾華さんが気づいて、また指をパチンと鳴らして傷をふさいでくれた。
「怪我はどうにかなったけど、疲労とか貯まってるし、水分も足りてないからちゃんと補給してね。はい、スポドリ」
ひょろひょろになった手でそれを受け取り、一気に飲み干した。水分が体の奥底まで染みわたっていく感覚がして、気持ちいい。
「スポドリが体の奥底まで染みわたって、生き返る~!」
「立てる? 立てるなら休憩するための小屋の方に行くよ。」と言われたけど僕はもう動けそうになかったから、「まだ動けそうにないです……」
そう答えると、綾華さんにお姫様抱っこされた。
なんでお姫様抱っこ? と思ったが、僕の体にムニムニ柔らかいものが当たるから、どうでもよくなった。
小屋の見た目は外の雰囲気とは異質な感じで、木で出来ていて小屋と言えないぐらい大きいけど家と言うには小さい。そうして中に入るとソファや机、冷蔵庫、ベットなどあって広くて涼しい。さらに机にはジュースやお菓子がたくさん並んでいる。綾華さんはベットに寝転がらせてくれた。
「ここで15分くらい休憩していていいよ。」
そう言って綾華さんはソファーでくつろぎ、お菓子を食べ始めた。
「あ、そうだ。ここにあるお菓子は好きに食べていいけど、食べすぎると昼ごはんが食べられなくなるから、ほどほどにね」
「分かった」
僕はそう答えて、しばらく横になって休んだ。
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休憩を終えて小屋の中で、綾華さんが言った。
「それじゃあ翔ちゃん。剣術と妖術、両方やるけど先にどっちやりたい?」
「それじゃあ剣術で。」
正直剣術よりも妖術の方がやりたかったけど先にキツそうな剣術をすることにした。
「おー、剣術ね。ちょっと待っていてね」
綾華さんは奥の部屋に入って行き、武器を何種類か持ってきた。大剣、刀、猟銃、大鎌、槍。
「この中で使いたい武器ってどれ?」
どれにしようか考えていると、綾華さんが言った。
「結局全部ちゃんと使えるようになってもらうけど、最初の一歩を何にする?」
どうせ全部やるんだしとりあえず、一番左にあった大剣を手に取った。
「大剣にするんだね。それじゃあ悪いんだけど、一旦持ち上げられるかどうかやってみてくれない?」
「これぐらいなら持ち上げられるよ。ほら。」
そう言いながらめっちゃ踏ん張って死ぬ気で持ち上げてみせた。
「持ちあげれるならよかった。それじゃあ一旦それを置いて準備運動とか筋トレでもしようか。」
「え~? せっかく持ったのにまだ使えないの?」
「準備運動しないと怪我しちゃうからちゃんとやらなきゃだめだよ」
確かにそうだけど、どうせ持ったなら剣を振りたかった。
そう思いながら、外に出て準備運動と筋トレをやることとなり綾華さんがスマホを置いてラジオ体操の音を流し始めた。
「なんでラジオ体操なの?」
「ラジオ体操って全身の筋肉が動かせるっていうのもあるし、しかもこの時間ならちょうどラジオ体操やってそうじゃん。」
こうしてラジオ体操が終わると、綾華さんが言った。
「それじゃあ次は筋トレをしていこっか。腹筋、腕立て伏せ、スクワットを全部60回して、柔軟もしようか」
そんな軽い気持ちで言っているが、筋トレ自体はしたこともあるけど、60回という言葉に放心状態となった。
「スイマセン。オッシャッテイルコトガヨクワカリマセン。」
「なんでロボットみたいなカタコト言葉になってるの? ほら早くやるよ。」
こうして腹筋、腕立て伏せ、スクワット、柔軟をバカみたいにやり続け、体が粉砕しそうになってぶっ倒れた。動けなくなって休憩していると、綾華さんが声をかけてきた。
「お疲れー。すごいヒョロヒョロになってるけど大丈夫?」
僕はほぼ何も聞こえないような状態で適当に「ム……、ムリィ……」と答えた。
そう返すと、また綾華さんが運んでくれてベットに寝かせてくれた。
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そして動けるぐらいに回復して起き上がった時、綾華さんが大剣を持ってきた。
「それじゃあ剣をしっかりと振れるようにしたいから外に出て、素振りしていこうか」
僕は剣術をやりたかったが、正直持つだけで精一杯だったので、とりあえず従うことにした。
素振りでは最初に、大剣を振る時の基本的な動きを叩き込まれた。上と横の振り方を手取り足取り教えてもらった。
教えてもらったフォームは、僕の感覚とはまったく違う動かし方で、振り方を覚えるのに苦労していると、綾華さんが重心や剣の角度を細かく指摘しながら、1時間ほど動きを直し続けてくれた。
そうしてある程度ちゃんと振れるようになってきた頃、綾華さんが言った。
「このままの動きで100回振ってみようか」
さっきの疲れが残ったままで100回もできるか不安だったけど、やってみることにした。
そして少し時間が経ち、素振りを続けていると、体に重しを乗せられているような感覚になってきて、だんだん振り方が雑になってきた。それを見た綾華さんがこう言った。
「疲れてるのかも知れないけど、振り方が適当になっているよ。1回1回遅くてもいいからしっかりと振ることを意識して。変な癖がつくと後で大変になるよ。」
適当に見えて、ちゃんとしたアドバイスをするんだなこの人、と思った。
綾華さんに所々で指導されながら振り続けること2〜3時間。縦と横両方を100回ずつ振り終えると、綾華さんが飲み物を持ってきてくれた。
「お疲れ~。結構ちゃんと振れていてよかったよ。はい、これ。」
そう言いながら、さっきと同じスポーツドリンクを渡してきた。
「同じスポドリばっかり出てくるけど、これどんだけ持ってるの?」
「え? これ5箱ぐらい買ってるからいっぱい飲んでいいよ」
5箱って、多分120本くらいじゃなかったっけ。これを何日間で飲み干す前提で買ってるんだろう。
こうして小屋に戻って休憩し、いつの間にか綾華さんが買ってきてた昼ごはんを食べた。
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「それじゃあ今から妖術の方もやっていこうか」
昼ごはんを食べ終えてしばらく休憩していると、綾華さんがそう言った。
妖術をあえて後に取っておいていたから、わくわくしながら待っていた。
「それじゃあさっきの身体強化、やってみて」
さっきの感覚を思い出して、10秒ほどでやってみせた。
「なんでそれをやらせたかというと、身体強化って妖術の基礎中の基礎なんだよね。それがすぐ使えるくらいじゃないと話にならないから、まずは自分でパッとできるようになるまでやり続ける修行だよ」
「えー⁉ 氷の妖術の氷柱とか使ったりするんじゃないの?」
「使えはするけど、翔ちゃん今、数も知らないのに足し算やろうとしてるような状態だから意味ないよ。まず自分の妖力の感触をちゃんと知っておかないと。」
妖術師がそう言うなら、従うしかないんだろう。少し落ち込んでいると、綾華さんが笑った。
「まあまあ、そんな落ち込まなくても。どうせすぐできるようになるから大丈夫だよ」
気を取り直して、身体強化と解除を繰り返し始めた。時間がかければ身体強化が出来るけど一瞬でやろうとすると全然安定しない。3回に1回やっとできるという感じで、一向に上達する気配がなかった。
何回かやってみても伸びる気配が無かったから、綾華さんにコツを聞いてみた。
「コツね〜……翔ちゃんの妖力の動きを見てると、部位を一個ずつ纏わせて固めてる感じでしょ? さっきまで妖力の感覚を知らなかったんだから仕方ないけど……一旦、全身の妖力の感覚をしっかり覚えてから、全身に一気に纏わりつかせて固めてみたらどうかな?」
言われた通り、まず全身の妖力の感覚を時間をかけて丁寧に追っていった。感覚を掴めたところで改めて試みる。
結果は——所々できているが、逆にできていないところもある。
でも綾華さんは、「うん。いいじゃん、段々できてきてるよ。失敗しても大丈夫なんだから、続けてみて。」
やり方が分かってきたので、黙々と繰り返した。
そしてついに、やっと1回、完璧に成功した。
「やったー! できた!」
喜んで振り返ると、ソファでアイスを食べていた綾華さんがこちらを見てきた。
「おー、できた? なら次はそれを連続で10回できるように頑張ってね。」
初めて聞いた時僕は、そんなの余裕だと思っていて普通になめていた。
「そんなのすぐできるに決まってるじゃん。見ていてよ」
それを聞いた綾華さんは、にやにやした顔で言った。
「ほんと? そんなに言うなら次の準備でもしてこようかな。」
そう言って、小屋の中へ入っていった。
その間にでもとっとと終わらせてびっくりさせようと思ってさっそくやってみた。——しかし、連続10回というのが、想像以上に難しかった。
何度やっても安定せず、中々続かない。綾華さんが戻ってくる頃になっても、まだ達成できていなかった。
「あれ、まだできてない感じ? さっきはすぐできるって言ってたのに。それでどう、できそう?」
少し決まりが悪そうに答えた。
「……多分まだ時間がかかるかも。」
「ほんと? じゃあちょっと重要なものを忘れてきたの思い出したから今から取ってくるね。時間がかかると思うから、できてたら先に小屋で休憩していていいよ」
そう言って綾華さんはテレポートして、どこかへ消えた。
どこへ行ったんだろうと思いながらも、身体強化を繰り返し続けた。
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綾華視点
「はぁー……ホント相変わらずクソみたいなところだな〜ここは。」
そこは森に囲まれていて、目の前に大きな建物がある、妖術師協会の本拠地の前に来ていた。妖術師協会の本拠地の大きさは東京ドームと同じぐらいの大きさになっている。
妖術師協会とは、ほぼ名前の通りだが、妖術師への依頼を一般人や法人から受けて内容と先発部隊の諜報情報をまとめて妖術師に伝えたり、妖術師の階級を決めたり、七天を選出したりと、様々な妖術師の中間管理を行っている組織だ。
だいたいの妖術師はここに来ることはほとんどなく、インターネットを通じて依頼が届くようになっている。けれど綾は訳あって、小さい頃からずっとお世話になっている。
は〜、ホント……毎回ここに来るの嫌なんだよね〜。
そんなことを考えながら通路を進んでいると、途中で見知った顔に出くわした。
「先輩? ここで会うの珍しいですね。何してるんですか?」
「華奈ちゃん久しぶりだね。なんか顔色が悪いけど大丈夫?」
そこにいたのは、黒髪で刀を持った女の子——檮山華奈だった。綾が通っていた高校の2年生で、七天の一人でもある。
なぜ年が離れているのに「先輩」と呼ぶのかというと、綾が学校に通っていた頃に妖術やいろいろなことを教えていたことがあり、その影響で今もそう呼んでくれているのだ。
「大丈夫ですけど、先輩が妖術師の界隈からいなくなってから依頼の量が2倍ほど増えてきていて、少し疲れてるかもしれないですね。」
そう言われて綾は申し訳なさそうな顔をして、「あ〜……ごめんね……もしかして他の七天のみんなも依頼が増えてる感じ?」
「いつもは依頼を受けていなかった蒼馬さんも護衛を別の方に引き継ぎながら依頼をしているって聞きました。」
夜道蒼馬って言う人は、清原財閥令嬢の護衛をしている七天の一人で、普段は依頼を受けないけど、他の七天の依頼が滞っている時に代わりにやってくれているらしい。
このまま話を続けたいところだったが、翔ちゃんを待たせていることを思い出した。
「ごめんね。今日は基彦のおっちゃんに用があって、人を待たせちゃってるから早くいかなきゃ。」
そう言うと、華奈ちゃんは目に見えて落ち込んだ。
「あっ……そうだったんですね。久しぶりに会えたので、どこか食べに行きたかったです。」
そう言ってシュンとした顔になったから慰める為に「それじゃあまたLINEで予定を合わせて、夕飯一緒に食べに行こうよ。全部綾の奢りでいいから。」
通路を進んでいくと、後ろから華奈ちゃんの声が響いた。
「本当ですか⁉ 絶対に守ってくださいよ! 約束ですからね!」
しっぽを振っている子犬みたいだな、と思いながら、とりあえず手を挙げてフリフリしておいた。
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華奈ちゃんと別れて通路の先にある扉を開けると、議会のお偉いさんたちが会議しているような部屋に出た。
部屋に入った瞬間、下の席にいるおっさんどもが何かごちゃごちゃ言い始めたが、無視して前に進んだ。
すると一番上の席に座っているお爺さんが「静粛に!」と言い、周りが静まり返った。
「久しぶりだな、綾華。今は会議中だと言うのが見て分からんのか?」
このお爺さんの名前は朝霞基彦。この協会で一番のお偉いさんで、昔から綾によくしてくれている人だ。
「会議してるのは知ってるけど、多分その会議より綾の持ってきた情報の方が重要だと思うから入ってきただけだよ。だからここにいる他の邪魔な奴ら、どっか行ってくれない?」
そう言ったら下の席のおっさんたちが騒ぎ始めたが、お爺ちゃんは言った。
「いや、会議を途中でやめることはできんから、わしの執務室で聞くから先に行っておきなさい」
「え?」
思わず素の反応が出てしまった。
……あれ、雰囲気的に綾の言う通りになるんじゃないの? 綾がおかしいの、これ?
気づくと周りのおっさんたちが何人か笑っている。顔が熱くなって、泣きそうだった。
「それじゃあ会議が終わったらLINEで教えてね。」
そう言って、綾は空間転移で小屋の方へ戻った。
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小屋の扉を開けると、翔ちゃんがまだ身体強化をやり続けていた。
「翔ちゃん今どんな感じ? できそう?」
突然の声に驚いたようだったが、翔ちゃんは答えた。
「今やっと5連続できるようになったから、もうそろそろできるようになりそう。それで綾華さんは忘れ物を取ってこれたの?」
「取りに行ったけど追い返されちゃったから、もうちょっと後で取りに行こうかなって思ってる。それにまだ翔ちゃん自身が妖力の感覚を掴む段階だから、今は綾がしっかり関与できないんだよね。だから頑張ってね」
そう言って、綾は小屋の前にある椅子へ腰を掛けた。
サボりたいわけじゃない。本当に初期の身体強化の部分だけは人によって感覚が違うから、変に教えて拗らせてしまったらロクなことにならない。だからあえて何もせず翔ちゃんの感覚に任せた方がいい——そういう理由があるのだ。
そうして翔ちゃんを見ながら少し待っていると、LINEに着信が来た。見てみると、さっきの会議が終わったらしく来てくれという内容が書かれていた。
翔ちゃんが身体強化を終わらせる前に取りに行きたかったので、綾は空間転移でお爺ちゃんの部屋へ向かった。
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お爺ちゃんの執務室に入った瞬間、叫び声が上がった。
「おわー! 綾華、お主は儂のことを殺す気かー⁉」
そこに座っているのは、さっきは議会の場で威厳があるように見えていたのに、今はそこらへんでよく見かけるような普通のお爺ちゃん。これが朝霞基彦の普段の姿。
「何驚いてるのお爺ちゃん? 何回も見てるんだからそこまで驚かなくてもいいじゃん」
「絶対そんな訳ないじゃろ! 初めて見たわ! 儂も歳なんじゃからあんまり驚かせないでくれ!心臓が止まるわ!」
「さっき綾が恥ずかしい思いをしたんだからいいでしょ。」
「それはお前が会議の途中に割り込んできたからじゃろうが。」
そういうとお爺ちゃんは咳払いして、「それで久しぶりじゃな、綾華。この5ヶ月間何をしてたんじゃ?」
それに対して綾はソファーに座りながら「別に、仕事まみれだった分楽しんでいただけだよ。龍ちゃんとの新婚旅行にも行けてなかったし、どうせ他のやつらが出してるような休暇申請を出しても却下されるんでしょ?」
お爺ちゃんは申し訳なさそうに「綾華の仕事だけは他の者に任せることができんからな。本当に、申し訳ないな。」といった。
そしてお爺ちゃんの秘書の女性が給湯器でお茶を注いで綾とお爺ちゃんの座っている前に置いた。お爺ちゃんはそれを飲んで続けた。
「それで、重要な用件って言っておったな。どうしたんじゃ?」
「ん〜とね。今日来たのは——六原色の武器を貸してほしいんだよね」
お爺ちゃんが、時が止まったかのように固まった。そして、めちゃくちゃ驚いた顔をした。
「もしかして今代の六原色が見つかったのか⁉」
「まだ分からないんだけど、その可能性のある子がいるから確定させるために貸してほしいんだよね。」
お爺ちゃんは綾の目をじっと見て、少し考えてから言った。
「そうか……嘘をついてる感じもなさそうじゃしな。それでどうやって見つけたんじゃ? 儂の方で探しても全然見つからなかったのに」
「友人の伝手でたまたま見つかっただけだよ。それで、持ってきてくれるの?」
「分かった。持ってこさせよう」
お爺ちゃんが秘書に指示を出して取りに行かせている中、お爺ちゃんは綾に「重要なことはこれで終わりか? お前のことじゃから、これで終わる気がしないのじゃが……」
「ん〜……そういえばどっかに行った四季邪王の内の一体かもしれないのを見つけたって話、したっけ?」
そう言ったら、お爺ちゃんは驚いて口から魂が飛び出しているように見えた。
魂が出ていくと思ってなくてめっちゃ焦りながら「お爺ちゃんごめんって! 本当にこれで死ぬ人は見たくないから早く戻ってきてよ!」
揺さぶると、お爺ちゃんはゆっくりと戻ってきた。
「はっ!……人って驚きすぎると本当に死ぬんじゃな……ほんとお前は儂を殺す気か!」
「ほんとごめんって、綾が悪かったから許してよ」
「大体お前は……」
この後、今までやらかしたことを全部怒られた。
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説教が終わった後、綾は翔ちゃんのところで起きたことを伝えた。
「そうか、そんなことがあったんじゃな……それで儂が1つだけ聞きたいのじゃが。綾華……お前は四季邪王を相手にして、勝てそうか?」
神妙な顔で聞いてきたので、綾は答えた。
「あんなレベルなら何体いても変わらないよ。建物とか壊したり何してもいいなら、4体まとめてでも勝てるよ」
お爺ちゃんは安堵したように言った。
「そうか、なら綾華、今から……」
「四季邪王が全員どこにいるか分からないから無理だよ。しかも今、六原色の子を育ててるから他のことも出来ないし」
今から四季邪王を殺してくれなんてめんどくさい。それに、翔ちゃんが頑張る目的を削ぐわけにもいかないしね。
お爺ちゃんは少し寂しそうに言った。
「まあそうか。もとよりお前さんがやってくれるとは思ってなかったからのう……」
そうして話していると、剣を取りに行っていた秘書が戻ってきて机に置いた。
「これが六原色の武器? こんなの使い物にならないでしょ?」
目の前に出てきたのは、変な鉄の塊だった。結構ボロボロで、武器にならなさそうな見た目をしている。
「こんな見た目はしておるが、六原色が持つとちゃんとした武器になるんじゃよ。そういえば綾華はそのことを知らんかったのか」
「だって綾、前の六原色と会ったことも無いんだしょうがないでしょ。それでもう持っていっていい? 時間もあんまりないからさ。」
「そうか……それなら早く行った方がいいじゃろ。」
鉄の塊を手に取った時、言いたいことがあったのを思い出した。
「あ、そうだお爺ちゃん。六原色かどうかの結果は、お爺ちゃんにだけ伝えるから、七天とかそれ以外の人にバラさないでほしいんだよね。」
お爺ちゃんは少し怪訝な顔をしたが、やがて納得したように言った。
「お前さんのことだから何かしらの理由があるんじゃな。分かった、それ以上は何も聞かないようにしよう」
「ありがとうね、お爺ちゃん。また時間があったら飲みに行こ。前にいいところ見つけたんだ」
「うむ、いつでも誘ってくれ」
そう言って、綾は空間転移で小屋へ帰った。
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綾華が空間転移した後の翔夜視点
「あともうちょっとなんだけどなぁ」
今は、身体強化の連続使用の成功回数が5回まで増えていた。
でもさっき出来た感覚に任せてやってるから1回の時や5回のときもあって結構ばらばらになっている。
それでもなんとなく自分の体の中にある妖力の塊が、手掴み出来るぐらいには分かるようになってきた。
それでその塊を全身に纏わせて均等にすると、うまくいく気がする。
その感覚を頼りに何回か試してみると、安定して6回、7回と回数も増えていってあっさり10回連続で成功した。
感覚が分かったら、思ったより簡単だった。
時間を確認すると、2時間ほど経っていて、さすがに疲れたので水を飲んでソファーに寝ころんだ。
少し休んでいると、突然真後ろから綾華さんが現れて驚かせてきて、びっくりして飛び上がった。
「びっくりした! いつの間に後ろにいたんだ……その鉄の塊が言ってた忘れ物なの?」
「うん。それで10回連続で身体強化できたの? できたなら見せてみて。」
「それじゃあやってみるよ。」
10回連続で身体強化を成功してみせると、綾華さんが嬉しそうに言った。
「おおー、もうちょっと遅いかな~って思ってたけど、思ったより早くできてるじゃん。なんとなくの勘で取りに行っていてよかったー。」
そう言って鉄の塊を机に置いた。
「それじゃあ次の修行でもしようか。とりあえず一旦これを持ってみて」
渡された鉄の塊を持ってみると、いきなり光をまとい始めた。
「なんか変な光が巻き付いてるけどなにこれ⁉ 光って鳴るタイプのDXおもちゃでも持ってきたの?」
「そんな訳ないでしょ! すごいね、どんな妖術を使うとこんな風になるんだろう」
2人で鉄の塊を眺めていると、やがて光が収まった。
光が消えた後の鉄の塊を見ると、新品と変わらないキレイな大剣に変わっていた。
「おおー! 鉄の塊が大剣に変わったんだけどなにこれ⁉」
綾華さんが驚いた表情で呟いた。
「本当に六原色が持つとちゃんとした武器に変わるんだ。お爺ちゃんが言ってたことは本当だったんだね。」
そして続けた。
「翔ちゃん。今持っているのが六原色の武器——紅焔の剣って言う武器でね。六原色が持つと見た目が変化する武器らしいんだよね」
「え? 六原色なら変わるってことは……僕って本当に六原色なの?」
「剣がそうなってるんだからそうなんでしょ。まあ1番の疑問点だった六原色かどうかがはっきりしたし、次どうしていくかも決まったしね。とりあえず攻撃技は後からいっぱいやるし、翔ちゃんには今から便利な汎用術でも教えていこうかな。」
「汎用術って何?」
綾華さんが「あれ?」というような顔をした。
「もしかしてまだ妖術のことって教えてなかったっけ?」
「うん。そこだけ教えてもらってなかったよ」
「そうだったんだ……ごめんね。もう教えてるものだと思っちゃってた」
そのまま綾華さんが話し始めた。
「それじゃあ、まず妖力の説明をするね。この世界の空気中には妖力というものがあって、それを人が体に貯め込んで、術式に通すことで妖術を使えるようになるんだよね。分かりやすく言うと、溶けた金属が妖力で、それを貯めておくところが人の体。流し込む型が術式で、それで出来上がったものが妖術——って考えると分かりやすいかも」
確かに分かりやすかった。
「妖術には固有術と汎用術の2つがあるんだよね。まず固有術は、自分が生まれた時から使える妖術で、体に術式が刻まれているから基本的に他の人が同じ術を使うことができない。だから固有術って呼ばれているの。逆に汎用術は、術式が教科書などに載っていて誰でも使えるようになっているもののこと。誰でも使えるように設計されているから威力や利便性がやや劣るっていうデメリットはあるんだけど、妖力さえあれば誰でも使えるというのが便利すぎて、誰もおかしいと思っていないんだよね」
「そ……そうなんだ。」
「でも翔ちゃんには教科書では載っていないような、ちゃんとした汎用術を教えるから安心してね。」
教科書に載っていないものが安心できるのかという疑問はあったが、一旦無視してやってみることにした。
「まず翔ちゃんに覚えてほしいのは対妖壁かな。」
対妖壁——確か妖術から身を守るための術だったはず。
「そんなのよりも、綾華さんが使ってたあのすごい技を使いたいんだけど!」
「別に対妖壁だってすごいよ。ほら見てなよ。」
そう言うと綾華さんは指をパチンと鳴らして「すべてを無に帰す恒星」と唱えた。
とてつもなく大きな炎の玉が大量に出現して、こちらに向かってきた。
圧巻すぎて思わず「え~⁉死ぬ死ぬ死ぬ⁉」
思わず頭を抱えると、綾華さんが手を前に出して「対妖壁」と唱えると、僕たちの周りに円球のバリアが出現した。
これで全部防げるのか不安に思いながら見ていると、炎の玉が対妖壁にぶつかった。
すごい爆発音が鳴り響き、鼓膜が破れそうな感じだったから思わず耳を塞いだ。煙が上がって周りが見えなくなる。
少し時間が経つと音がなくなり、目を開けると煙も晴れていた。周りの地面がボコボコになっていたが、2人のいた場所だけが無事だった。
あまりのすごさに放心していると、綾華さんが言った。
「どう? これって結構すごいでしょ? 今から翔ちゃんはこれをやるんだよ。」
こうして僕の修行が始まった。
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綾華さんがボコボコになった地面を何かの術で元に戻した後、綾華さんから謎のノートを渡された。
「なにこのノート?」
「綾が書いた汎用術をまとめたノートだよ。翔ちゃんはこれを見て汎用術を覚えていくよ。無くしたらまた書くのめんどくさいから無くしちゃだめだよ。」
汎用術と言うのを教えてもらって、汎用術じたいどうやって使うのか見当もつかなかったから、このノートに答えがありそう。
「それじゃあ10ページぐらいに対妖壁の術式が書かれてると思うから、そのページを開いてみて。」
言われた通りノートを開くと、魔法陣のようなものが描かれていたけど、どう言う意味が込められているのかよく分からない。
「開けたけど、これでどうやって使えるようになるの?」
「汎用術を使えるようにするためには、ここに書かれている術式の形と同じように妖力を通さなきゃいけないんだよね。最初はノートを見ながらでいいからとりあえずやってみて。」
言われた通り、書かれている術式に妖力を通すイメージでやってみると、目の前に書かれているものと同じ術式が出現した。
それを見た綾華さんが、驚いた後に嬉しそうに言った。
「いや〜、翔ちゃんの妖術のセンスがいいから、教えるのが楽でめっちゃうれしいよ〜」
「それって僕が六原色だからじゃないの?」
「それもあるかもしれないけど、今まで教えてきた子たちの中でも結構習得が早い方だと思うよ。」
「今まで何人か教えたことがあるの?」
「翔ちゃんの前に3人教えてたよ。もしかしたら任務をしてたら会うことがあるかもね。」
こうして僕は術式の形を覚えるために何回も繰り返しでやっていて気になったことを聞いた。
「汎用術って、術式の形を覚えてそれに妖力を流し込んでやっと使えるようになるのって効率悪くない?戦ってる時とかに隙にならないの?」
「確かに使い慣れてないやつとかならそう言ったこともあるけど、何回も使ったことのある術なら体が勝手に覚えるから、それまで何回もやって覚えなきゃね。」
そんな話をしながら、2〜3時間の修行が続いた。
対妖壁、自分を回復させる慈愛の光、暗闇を見通す暗視——便利な汎用術を次々と叩き込まれ、展開と解除を繰り返す。同じことの連続に精神的に限界が来た頃、思わず口から出た。
「なんでこんな同じ技ばっかりし続けるの? 別の技をやった方がよくない?」
綾華さんが少し驚いた顔をした。
「翔ちゃんに練度のことを教えてなかったっけ?」
「聞いたことないけど、何それ?」
「じゃあ例えば、初めて使う道具よりも何回も使ったことのある道具の方が使いやすいでしょ。」
「それはそうでしょ。なんでそんな当たり前のことを言ってるの?」
「そう、当たり前のことでしょ。それってその道具の練度が上がってるから使いやすくなってる訳じゃん。」
「そうだね。」
「それが妖術にはめっちゃ重要でね。1つの妖術を使い続けて練度が上がっていくと、その妖術の強度が上がったり、必要な妖力量が下がったりするからすごく重要なんだよ。翔ちゃん以外の学生は昔からずっと使っていて練度が上がっているけど、翔ちゃんは今まで使ったことがないから差がある。そこを埋めるために今やってるんだよ。」
そう言ってから、綾華さんが「いい例見せるからちょっとノート貸して」と言い、最初の方のページを開いた。
「ほらこれを見てみて。」
見せられたページには、対妖壁の術式の100倍はあろうかという、大きく細かい術式が描かれていた。
「なにこれ?」
「ここに書いてるのがさっき翔ちゃんに対妖壁のすごさを見せるために使った妖術の術式だよ。これを今の翔ちゃんが使おうとしたら、翔ちゃん何人分の妖力が必要なのかな。」
なんでそんな術を朝飯前みたいに使えているんだろうと思ったけど、すぐに理由が分かった。
「でも綾は昔からずっと使ってる術だから、今なら一般的な対妖壁を使う妖力とそこまで変わらないよ。」
「練度が上がったら威力とか必要な妖力が低くなるのは分かるけど、必要な妖力の量って下がる限界値とかあるんじゃないの?」
「確かに限界値自体はあるけど、裏技を使えば限界値を2〜3倍ぐらい下げられるから、練度って結構重要なんだよ。」
それって裏技の方がすごいんじゃないの?
そんな話をしながら、地獄の特訓は続いていくのだった。




