第一話 二人の特別な黒 ※挿絵あり
名門と名高い私立の小中高完全一貫教育校である英和女学館初等部の五年生、沙也加と春奈。
二人が出会ったのは、桜の絨毯が校庭を覆う四月の始業式でした。
この学校の制服は、伝統的な濃紺のセーラー服。三本の白いラインが入った襟元に、指定の黒タイツを合わせるのが、規則通りの着こなしとなっています。
教室の窓際、春の風にセーラーの襟をなびかせていた沙也加は、ふと隣の列に座る少女、春奈の足元に目を奪われました。
沙也加と春奈は、入学以来、今年初めて同じクラスになりました。
(……なんて、しなやかなんだろう)
中等部・高等部の生徒たちの履くタイツと違って少し厚手のいかにも児童用らしい黒タイツ。
自分を含めて誰もが同じ黒タイツを履いているはずなのに、春奈の足は違って見えました。
セーラー服のプリーツスカートの裾から伸びるその脚は、重厚な黒に包まれながらも、驚くほど軽やかで、凛とした知性を感じさせたのです。
放課後、昇降口へ向かう廊下で、沙也加は前を歩く春奈を無意識に追いかけていました。
階段を一段降りるたびに、タイツの生地が膝の裏でかすかに動き、光を吸収しては柔らかな陰影を作ります。
「……あの、私に何か用かしら?」
不意に春奈が立ち止まり、振り返りました。
セーラー服の胸元のスカーフがふわりと揺れ、春奈の真っ直ぐな瞳が沙也加を射抜きます。
「あ……ごめんなさい。あまりに、貴女の足元が綺麗で……」
沙也加は思わず本音を漏らし、慌てて口を押さえました。
しかし、春奈は怒るどころか、驚いたように目を見開き、ゆっくりと沙也加の足元へと視線を落としました。
「偶然ね。私も、今日はずっと貴女のステップに見惚れていたの」
春奈は一歩、沙也加に歩み寄りました。
「この学校のセーラー服は、足元まで美しく見せるようにデザインされていると聞いたけれど……貴女が履いていると、それが本当のことだと分かるわ」
誰もいない踊り場で、二人の少女は向かい合います。
紺色のセーラー服に身を包んだ二人の境界線は、その足元の「黒」によって分かたれ、そして繋がっていました。
「沙也加さん、って言うのよね」
春奈は優雅に右足を一歩引き、まるでお辞儀をするかのような仕草で自分の足を、そして沙也加の足を一瞥しました。
「明日も、貴女のその綺麗なタイツ姿を見せてくれる?」
沙也加は、自分の心臓の音がセーラー服の胸当て越しに高鳴るのを感じました。
「うん、もちろん……春奈さん」
二人は微笑み合い、放課後の静かな校舎を、お揃いの黒い足音を響かせながら歩き出しました。
それは、初等部の五年生という多感な時期に始まった、二人だけの特別な物語の序章でした。




