ハイハイハイ、こっからアゲてこ!
「国王になっていただきたいのです」
「・・・は?」
突如、我が家にやってきた洗練された空気を放つ貴族は、そう言った。
「すみません、もう一度?」
「国王になっていただきたいのです」
「・・・は?」
いやいやいや、まじで状況が掴めないんですが?
いやこれ誰にいってんの?
呆然としたまま固まった俺に、貴族は苛立ちなど一切ない笑顔でもう一度繰り返した。
「国王になっていただきたいのです」
「・・・いや、まずあなた誰ですか?」
「あっ、失礼しました」
少し恥ずかしそうに微笑む彼は、本当に忘れていたようだ。俺よりかは年上だけど、まだ若い。
「アラン・ディクリーと申します。ディクリー公爵家のものです」
「ええぅ・・・」
公爵家って王家の次に偉いとこじゃん。平民の俺には詳しい身分は知らないけど、公爵様がすごい奴ってことは分かるぜ!
「あ、俺はフェルノルトです。平民だから名字ないですけど」
「ああ、あなたの本来のお名前は、フィツロークです」
「は? それ、国の名前ですけど?」
「ええ、そうです。あなたはフィツローク王国の国王陛下のご落胤なのですから」
「・・・は?」
ここに混乱極まれり。
いや、まじかよ。俺、国王のご落胤っつーことは王位継承権があるっつーことだろ!?
「やべえ・・・」
「はい、やばいです。今、王太子殿下が不在なので」
「は? いや、この前隣国の王女と婚約したって聞いたんですけど?」
「ええ、婚約破棄されまして」
「なんで?」
いやまじでなんで?
婚約破棄って滅多にするもんじゃねえだろ。相手が病気になったとか家が没落したとかそういう理由だったら、分かるよ? でも王太子って婚約破棄するほどの理由ねえだろ。
アランはニッコリと笑った。
「王太子は馬鹿だったのです」
「・・・え、それだけで?」
思わず目をぱちくりさせる俺。ため息をつくアラン。
「それだけ、という話ではありません。まず、王女がいらっしゃるにもかかわらず、恋人をつくりました。平民のです」
「やべえなおい」
「更には公務も全くできませんでした。王女に押し付けていたのです」
「やっべえなおい」
「最終的に、王女から婚約破棄を突きつけられました。でも、国王に叱られたせいで、王女にすがりました。それもみっともなく」
「やっっべえなおいおい」
思わず口悪く突っ込んでしまう。
だが、流石に我慢できなかった。王太子ってやつ、大丈夫なのかよ?
「王太子は廃太子になりましたとさ、ちゃんちゃん」
「あーーーハッピーエンドを聞きたかったぜ」
「申し訳ない。ですが、これからあなたがハッピーエンドをつくってください」
「適当にいってるだろ」
「申し訳ない」
「謝るんかい」
つまり、状況を整理すると、国王がそろそろ隠居したいけど王太子が馬鹿すぎて廃太子になり、国王のご落胤である俺を国王にしたいっつーこと?
アランに確認すると、その通りですと深々と頷いた。
「なーるほどねぇ。でもさ、王弟とかいるんじゃねえの?」
アランは貴族だが、平民を馬鹿にしなさそうだし、俺も段々と口が悪いのがばれてきたので、もう普段の口調で喋ることにした。
「国王陛下にご親戚はおりません。今の国王陛下のご親戚は残念ながら、お亡くなりなのです」
「そんなことある?」
思わず突っ込んでしまったが、特にアランは気にしていなさそうだ。
「まーしゃーなしか。じゃあ、俺が国王やればいんだな?」
「ありがとうございます!」
♢♢♢
そんなわけで国王になりましたとさ、ちゃんちゃん。
で終わるはずも無く。俺は国王に本当になってしまった。
貴族たちは一部、反対している奴もいたけど、アランがどうにかしてくれた。大半は、前の王太子にうんざりしていたので、俺を支えるということで前向きに検討してくれているらしい。まあ、俺という操り人形を手に入れて喜んでいるだけかもしれないが。
そんなわけで、俺は王宮で暮らし始めている。
元々恋人なんて女性はいなかったので、婚約者が急遽つのられることになった。
俺なんかの婚約者になりたい人、いないんじゃねえの?
そう思ったが、顔見せのパーティを開いた後、何故か釣書が急増した。うん何で?
「陛下。最近、市場が荒れているようでして」
「えー? んじゃ様子みにいくか」
「準備、お手伝い致します」
アランは宰相となって、俺を支えてくれている。すごい献身的でありがたい。いつもありがとう。
「んわー、すごいなこりゃ。ああ、隣国から麻薬きてんのか! よっし、取り締まるぞー」
「了解です」
他の補佐官たちも連れてきていて良かった。
麻薬を取り扱っていた店主たちを全て逮捕する。
しかし、麻薬は取り扱っていないものの、プライベートで仲良くしていたらしい他の店の店主が、反発してきた。
「うへえ、お前平民だろ! 俺たちゃ、高いもんを売らねえと生活できねんだよ、知ってるだろ!」
「うーん、知ってはいるんだけどさ、別の商売でやってこうぜ? 例えばこれどう?」
ばっと差し出したのは、木綿だ。今の平民たちは麻でできた服をきている。それよりかは吸水性もあるし、この国でとれやすい綿を活かしてつくったものだ。
「え何だこれ」
「木綿っつうやつ。これ吸水性も高いし、肌着とかにぴったりだと思うんだけどどうかな」
「それは売れそうだな」
「だろ? ほら、競りのルートは確保しといてやるから」
「良いのかよ?」
「もちろん。決まり、こっからアゲてこ!」
「おう!」
いつの間にか周りに集まっていた店主たちが嬉しそうに、頷いた。
♢♢♢
それからも・・・。
「陛下・・・孤児院ではたくさんの子どもが困っているんです・・・」
「なんてこった。よし、俺が出来るだけいろんな孤児院に支援しよう! それから、貴族たちからの税も使って、支援金を募る! ハイハイハイ、こっからアゲてこ!」
「ありがとうございます・・・神よ!」
「陛下! 裁判所では毎日毎日忙しいんです! 有給をとりたいのにそれもできない・・・」
「それはヤバいな。よしっ、もっと人員を増やすぞ。まずは裁判の重要性で優先順位を決める。それから、一日に何件までというのをこちらで決めて、法律つくる! 頑張れ、こっからアゲてこ!」
「はいっ! ありがとうございます!」
「貴族だってプライドがある! 陛下はそれを何もお分かりになっていない! 税収は多く取るべきだ!」
「まあまあ、一旦落ち着こうぜ。税収あげたって、領民が減るだけだぜ? そうなったら逆にメンツが潰れるんじゃねえの?」
「む・・・確かに」
「よし、まずは職の斡旋と税率を下げていくことから始めようぜ! ハイハイハイ、こっからアゲてこ!」
「はい!」
♢♢♢
それからも俺は色々な国の闇に、てこをいれていった。その際に言うのが、「ハイハイハイ、こっからアゲてこ!」だった。俺自身は気づかなかった。
そして、今日は三人目の婚約者候補に会う日だ。
今までも公爵令嬢だか何だか知らないが、高貴な身分の女性とお見合いした。だが、どちらもしっくりこず、断らせてもらった。何だか権力や身分を笠に着ている態度がいやだったんだよな。
「初めまして、陛下。リディア・カロイスと申します」
初めてあったリディアという女性は、柔らかな雰囲気の可愛らしい女性だった。栗色の髪の毛に、垂れ目のピンク色の瞳。カロイス子爵家の長女さんらしい。
「初めまして、フェルノルト・フィツロークです」
つい最近まで平民だったので、マナーや所作などまだまだ習いたてだが、リディアはとても美しかった。
「陛下にお会いできて光栄です」
「フェルノルトと呼んでください。俺、元平民ですし、何だか落ち着かないんで」
「そうですか? なら、フェルノルト様。私のこともどうぞ、リディアと呼び捨ててください。敬語もなしで」
「良いの? なら普段の口調でいさせてもらう」
やっぱり慣れない敬語より、普段の口調の方が楽だなー。平民だからって甘えないようにしようとは思ってたけど、やっぱきちいもんはきちい。
その後、リディアとゆっくり話して、お互いに婚約を望んだ。
よって、リディアが婚約者になったのだ。
「これからよろしくな、リディア」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
♢♢♢
リディアが婚約者になり、俺も王としての仕事をようやっとこなせるようになってきた頃。国は前よりも随分と明るい雰囲気になっていた。
「フェルノルト様のおかげですね」
ここは王宮の一部屋の大きな大きなバルコニーだ。街が見下ろせる。
「リディアもかなりアイデアを出してくれたろ? そのおかげだよ」
「そんな私は何も・・・」
少し恥ずかしそうに微笑むリディア。
彼女は今まで子爵令嬢という身分から、あまりその才能を発揮できていなかったらしく、かなりの才女だということを周りは認識できていなかったらしい。けど、俺の婚約者という立場になり、次期王妃としての公務をしていく上で、かなり賢いということが分かったのだ。
いやー、まじ助かってんよな。俺抜きでリディアだけでも国をまわしていけそーなくらいよ。
「フェルノルト様はこの国をどんどんとアゲてくださいました。私たち貴族は、国のために働かなければならなかったのに、私利私欲のために色々と不正をしたりして・・・。同じ貴族として恥ずかしい。でも、フェルノルト様が国王となられてから、国は変わりました。今まで私利私欲で財を肥やしていた貴族たちは、取り締まられ、フェルノルト様の『こっからアゲてこ!』につられてどんどんと国は良い方へ向かった・・・」
いや俺そんな大袈裟なことしてないからね? リディアが褒めすぎだから、まじで。
照れている俺の心中に気づくことも無く、リディアは豊かになった国の街を見つめながら続ける。その横顔はとても真剣で、俺はどきっとしてしまった。
「フェルノルト様は本当に偉大ですね。私は本当に尊敬しています。・・・それから、その、ええと」
ん? どうしたんだ? いきなり口籠り始めたぞ。
「あの、これから、その、王妃・・・として私がお傍にいてもよろしいのでしょうか」
その言葉で、俺の胸の内はスーーーーッと晴れた。
そうか、さっきどきってしたけど、あれは———恋だったんだな。前からなんか心臓が痛いなって思ったりしてたけど、まさかこれが恋だなんて。知らなかった。
今自覚した恋を抱きしめながら、俺はにっこりとリディアの方を向いて笑った。出来るだけ彼女に安心と俺なりの最高の笑顔を届けられるように。
「もちろん。リディア、貴女に俺の隣に立っていてほしいんだ。・・・好きです、結婚してください」
リディアの瞳が大きく大きくみはられる。そして、こぼれ落ちんばかりの大きな瞳から、涙がこぼれ落ちた時。
「はい———!」
とても幸せそうにそう返事をしてくれたのだった。
♢♢♢
「いやー、今日まで長かったわ」
「は、恥ずかしい」
今、俺の目の前にはとても美しい純白のドレスをきた、美しく可愛いリディアが佇んでいる。
今日は、俺とリディアの結婚式だ。
「リディア。俺と結婚したら、王妃という立場になる。恐らく、とても責任の強い立場で、きっと辛いこともたくさんあると思う。でも、俺が隣にいるから。俺が隣で支えるから。———俺だけの王妃になってください」
俺自身も純白の衣装に身を包んでいる。
二人とも、穢れの無い清い色とされる白色を身に纏っている今でこそ、俺のいうことは決意があるものだとリディアは分かってくれるはず。俺の誠心誠意を込めたプロポーズに、リディアははっと目をみはり、その後相好を崩した。
「嬉しい。でも・・・あなただけの王妃にはなれません。私は国民のための王妃になります。———あなたの隣で。そして、———」
そこで一度、言葉を切り、リディアは深く息を吸い込んだ。
「"愛しいあなた"だけの妻になります」
俺ははっと深く息をのんだ。
今までリディアから愛の言葉を聞いたことは無かった。それとなく伝えてくれてはいたが、はっきりと聞いたことが無かったので、愛しているのは俺だけかと思っていた。
けど、違った。
「リディア・・・! 愛してる」
「私もですよ、フェルノルト様。———これからも、二人で国をアゲていきましょうね」
勢いで書いたので、反応が無さげなのでは・・・と思っています。
多分、何も反応が無さそうだったら数日で消すことになると思われます。
読んでくださってありがとうございました!
評価などアゲていってくださると嬉しいです!!




