落ちこぼれの少年サイ
第一章
朝日が差し込む「天乃学園」の教室。
窓際の席に座るサイは、今朝の魔法実践の授業でまたしても失敗したばかりだった。
彼の前の机には、半分だけ形になった魔法の産物が置かれている。
「はぁ…」サイは深いため息をついた。
黒髪を掻き上げながら、窓の外を見つめる。
この世界では、およそ1000人に1人が「固有スキル」と呼ばれる特別な力を持って生まれる。
その多くは幼少期に覚醒するが、中には気づかないまま生涯を終える者もいる。
さらに稀に、成人後に覚醒する者や、二つ以上のスキルを持つ者もいると言われていた。
サイは数ヶ月前、田舎の村で「複製」の固有スキルが覚醒した。
天乃学園はスキル持ちを手当たり次第に集めており、学費免除で彼を迎え入れた。
サイは地元で過ごしたかったが、親の大喜びする顔を見て、嫌だと言えないまま入学を決めた。
それから約3ヶ月、彼は学園内の寮で暮らしていた。
隣の席の生徒たちは、見事に完成させた魔法の産物を誇らしげに見せ合っていた。
彼らも固有スキル持ちだ。クラスメイトはみな戦闘に特化していたり、回復や索敵など魔物退治や対人に向いているスキルの持ち主ばかり。
海の向こうの大国では戦争が頻発しており、やはり期待されるのは華のある戦闘系、補助系のスキルだった。
「みんな、注目してください」教師のミズキ先生が教壇から声を上げた。
彼女は若くして魔法の達人として名を馳せた実力者だった。
「今日の課外活動は、学園西側の森林エリアでのフィールドワークです。自然の中で魔法の実践を学びましょう。グループに分かれて行動してください。」
教室内がざわめき、生徒たちが次々とグループを作り始める。
笑い声や相談の声が飛び交う中、サイの周りだけが静かだった。
誰も彼に声をかけない。
「サイ君」ミズキ先生が心配そうに近づいてきた。
「どこのグループにも入れなかったの?」
「はい…」サイは小さく答えた。机の上に置いた手を握りしめる。
「じゃあ、あのグループに入りなさい」ミズキ先生は教室の隅にいるグループを指さした。
そこには、クラスの中でも成績上位の生徒たちがいた。
サイは渋々と立ち上がり、指示されたグループへと向かった。
ミズキ先生は彼の背中を見送りながら、小さくため息をついた。
彼女はサイのスキルの有用性に気づいている数少ない教師の一人だった。
よろしくお願いいたします。