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転生物語  作者: 情緒箱
第一章:転生、幼年期
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第七話:師匠

サブタイ:尊敬と誇り

 俺は異世界に転生して一度も外に出たことがない。

 出ないようにしてきた。

 怖いから。


 庭に出て、雨に打たれれば、家の敷地から一歩出れば、すぐに思い出す。


 好きだった幼馴染が、父親が俺を庇った瞬間を。

 冷たい雨とトラックに轢かれた感覚と痛み。

 俺はイジメられていたからだろうか。

 体が頑丈だったゆえに、心の痛み、人の許容値を超えた痛みには耐えられなかった。


 俺はイジメられることの恐怖も、イジメることの快感も無い。

 あの出来事と比べれば、あの人達の痛みに比べれば、あんなのには足元にも及ばないから。


 卒業試験は、ここから少し離れた所で行うらしい。


 外は怖い。嫌いだ。


 大事な日でも普遍的な日でも、ソレはやってくる。

 どんな時でも死がやって来る気がして、怖いんだ。


 覚悟を決めないとな。

 過去トラウマの克服を。


 卒業試験当日。


「ルナ、そろそろ行きますよ」

「は、はい」


 俺はリリアさんと馬に跨り、外に出ようとする。


 体が強張る。

 体が震える。

 呼吸が荒くなる。

 今すぐ逃げ出したい。


「はは〜ん。

 ルナ、もしかして、馬が怖いんですか〜?」

「い、いえ…ち、ちが、ちが…います」


 ニヤニヤしながらこちらを見てくる。

 やめてほしい。

 イジメてた頃の俺のようだ。

 端を思い出させる笑顔だ。


「大丈夫ですよ、ルナ。

 安心して下さい。

 そんなに怖いものじゃないですよ」


 違う、そういうことじゃない。

 泣きそうになる。

 体が拒否する。

 これ以上進みたくない。


 ………いや、落ち着け、落ち着け。

 ここは、前世とは違う。

 あんなクソ野郎みたいな奴なんざいないんだ。

 違う違う、そうじゃ、そうじゃな〜いを流せ。

 大丈夫、安心しろ、大丈夫だ。


 呼吸が落ち着いてきた。

 気づくと、もう敷地外にでていた。


「ほらほら、大丈夫でしょう?」


 子供っぽい。


「こんにちは」


 リリアさんは、馬に乗った通りすがりの人に挨拶した。


 その人の顔がアイツらに重なる。

 一生憎み続けてきた、その顔と。


 顔がこわばっていたのだろうか。

 その人は俺を見ていた。


(こりゃいかん)


 理性を取り戻した。


 通りすがりの皆がリリアさんに挨拶していた。

 魔族というだけで風当たりが強いだろうに、よくここまで信頼を得られたものだ。


 いや、当然だろう。

 以前聞いたが、リリアさんは仕事の手伝いもしているらしく、皆とはほとんど知り合いだったのだ。


 少々誇らしい気分になり、尊敬を覚えながらも、気分は影を落としていった。


 彼女が剣士に殺されるのでは?


 俺は気を抜けなかった。

 次に俺の大切な人が危機に陥るなら、今度は俺が庇うのだ。


 ただ、緊張を解すため、多少雑談した。

 ここはトランス領のダイナ村というらしい。

 アスロがトランス領の管理を任されていると思ったが、実際にはトランス領の、ダイナ村の管理を任されているらしい。


 副業で村の警備もしているため、基本午後しかいないわけだが、たまに休みで午前もいる日がある。

 そういう日ではローディスに剣術を教えているようだ。

 しかし、ローディスはあまり教えられていないのに各流派を上級まで習得しているのだから、やはり天才だ。



 何事もなく目的地に着いた。

 奥まで草原の続く高台。

 ここなら大丈夫だろうと、安心した。


 リリアさんは馬:ピカスリントから降りた。

 そして、たった1本の丈夫そうな木に馬を連れ、手綱を結んだ。


「ではルナ、卒業試験を行います」

「はい」

「これから、水魔級の攻撃魔術、雷轟積乱雲ネフェリオンを使用します。

 この魔術は広範囲にわたって雷雨を轟かせます」


 言われた時点でどれほど強力か想像できる。

 ここでやるのは多分だが、人や農作物に被害が出るからだろう。

 楽しみであり、怖くもある。


「では、よく視て、聴いて下さい。

 荒れ狂う水の精霊よ、雷霆を手に降り注ぎ給え、

 蒼き海より滴りし雫、天上を巡りて雲を成せ、

 荒雲は雷の鼓動と共に、

 嵐と豪水の両翼を広げよ!

 今ここに!天地を繋ぐ天雷と水の塔………」


 詠唱が完成に近づくごとに、黒い雲が出来ていく。

 更に、雨が強まり、風も立っていられなくなるほどだ。


 ものすごい圧がある。

 体が痺れて動けないほどの。


「ネフェリオン!!」


 とんでもない轟音と共に、目の前に雷が落ちた。

 鼓膜が破れると思ったほどの轟音と速度。

 これを、再現しろと………超えろというのか。


「ルナ、これが雷轟積乱雲ネフェリオンです。

 合格は………そうですね。

 魔術の発動に加えて、その状態を三十分維持し続け

 て下さい。

 念の為、ピカスリントは私が守っておくので、気に

 せずやって下さい。」

「はい!」


 あの魔術を見て、心が、魂が、煮えたぎらない者はいるだろうか?

 アレを、俺は超える。

 今こそこれまでの集大成を出す時だ。


 失敗は許されない。

 最高、最強の魔術を魅せるのだ!


「荒れ狂う水の精霊よ、雷霆を手に降り注ぎ給え、

 蒼き海より滴りし雫、天上を巡りて雲を成せ、

 荒雲は雷の鼓動と共に、

 嵐と豪水の両翼を広げよ!

 今ここに!天地を繋ぐ天雷と水の塔………

 ネフェリオン!!!」


 轟音が聞こえる。

 万が一のためにと、遠くに落ちるよう設定した雷で、さっきを上回る音が出た。

 あとは、この雨雲を維持するだけ。

 ここで、科学知識を利用する。


 上昇気流と下降気流を安定して発生させ、積乱雲が崩れないように調整し、放置する。


「ッ!………ルナ」

「何ですか?

 まだ始まったばかり…」

「合格です。

 雲の性質を利用してですか…発想の天才ですね」

「あ、ありがとうございます」


 彼女は雲を散らし、俺たちの服を乾かしながら言った。


「おめでとうございます、ルナ。

 今日から貴方も、水魔級魔術師です」



 翌日。


 いつもより少し早い早朝に、別れの時間が来た。


「リリ、まだここにいてもいいのよ?」

「そうだぜ。

 家庭教師は終わったが、街の奴らは歓迎するだろう」

「ありがたいお言葉ですが、私は旅に出て魔術師とし

 ての力を上げていこうと思います」

「リリアさん、今日まで、ありがとうございました」

「はい。

 ローディス君には、ルナとは違う才能があります。

 ですから、是非、その才能を磨いて下さい。

 私だって、意外とルナに抜かれてしまったのはショックなんですよ?」


 少しの沈黙の後、彼女は俺の頭に手を置いた。


「ルナ、私は頑張って魔術を教えましたが、私に出来

 ることは少なかったです。

 すみませんでした」

「そんな事ありません!

 師匠は、師匠は!

 俺を導いてくれました。

 魔術以外にも、たくさんのことを学びました!

 だから、謝らないで下さい!!」


 この世界に来てからは初めてだったと思う。

 ここまで他人のために泣いたのは。


 この人は、たくさんのことを俺に教えてくれた。

 この人は、俺の、尊敬すべき、師匠なのだ。

 そして、俺は、この人の弟子であることが、唯一無二の、誇りなのだ!


「………ルナ、ローディス、これを貴方達に託します」

「これ、は?」


 何だ、これは?

 

「卒業祝いの、お守りです。

 ローディスには餞別ですね。

 私の種族は結構有名ですから、そのお守りを見せれば、融通を利かせてもらえるかも知れません」


「「ありがとうございます」」


「最後に、ルナティス。

 ………貴方は、私の誇りです」


 彼女は俺を連れ出してくれた。

 俺だけじゃ、外には出られただろうが、安心してなんてのは一生無理だった。


 彼女には、恩しかない。

 絶対に見つけ出して、精一杯返してやる。


 気づいたら俺は走り出していた。

 最後の力を振り絞って、彼女にこう伝えるのだ。


「師匠〜〜〜!!!

 僕は、師匠の弟子だったことは、一生の誇りです!!!

 ありがとうございました〜〜〜!!!」


 彼女を尊敬しよう。

 家族として、弟子として。


─ リリア視点 ─


 ヴェスペリア家と暮らせたのは幸せだった。

 そして、楽しかった。


 セリアさんと、レイラさんと、アスロさんと他愛のない会話をして、ルナとローディスに魔術を教える。


 ルナは優に私を超えた。

 その知識と発想力、そして魔術への高い熱意をもって、攻撃魔術を上級まで、水魔術は魔級まで習得した。


 ローディスは補助として優秀だ。

 治癒と結界を上級、治癒を中級まで習得した。

 その上、まだ伸びしろはある。

 もしかしたら、治癒と結界は魔級のまで届くかも知れない。

 そして攻撃魔術も風と土を中級、火と水は上級まで、更に剣術は上級の域にある。



 どちらも、成人すれば私を超えてくるだろう。


 ただ、それまでは超えられたくない。

 師匠としての誇りと意地がある。



 別れの日。


 ローディスは最後まで立派だった。

 ルナを導いてくれる立派な兄となるだろう。


 ルナには、最後に、

「貴方は私の誇りです」

 といいました。


 本心を伝えてみました。

 あの歳であそこまでの熱意。

 アレほどまでの才能。

 廃れない精神。


 全てを持つルナを育てられたのは、我が一生においての誇りとなるでしょう。


 「僕は、師匠の弟子だったことは、一生の誇りです!!!」


 そう言われた時、涙が出そうでした。

 嬉しかった。

 あんな事を言ってくれるなんて、思わなかったから。



 貴方達は、私がいなくとも十分なほどです。

 どうか、頑張って生きて下さい。

 そしてまた、会いましょう。

1章前半終了。


兄貴はかっこよくなっていきます

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